狙いが読めない。何か裏があるのでは、と勘ぐってしまう。

 国土交通省が、自治体や事業者に促す地方鉄道の存廃協議について、輸送密度(1キロ当たりの1日平均乗客数)が千人以上の線区も対象に拡大する方針を固めた。これまで目安としてきた千人未満は利用状況が危機的で「特に優先度が高い線区」とした上で、鉄道による大量輸送の利点が十分に生かせない4千人未満までは協議対象になり得る、との考えを示している。

 山陰両県関係のJR西日本の6路線に当てはめると、4千人を上回ったのは新型コロナウイルス禍前の2019年度の山陰線と伯備線のみ。コロナ禍で乗客数が落ち込んだ20、21年度は全て4千人未満だった。数字だけ見れば、両県に鉄道は不要という結論になってしまう。人口が少ない地方の実情を無視した「中央の論理」でしかなく、到底容認できるものではない。

 唐突に映る対象拡大の裏には国会議員対策があるようだ。

 国交省の有識者検討会は昨年の提言で、協議会設置の目安を「千人未満」と明示。一方で、今年4月に成立した改正関連法は「大量輸送という鉄道の特性を生かすことが困難な区間」とし、数値は示していなかった。ただ、輸送密度が千人を上回っていても存続が危ぶまれる線区は多く、国会審議などで「千人以上は協議しなくていいのか」という指摘もあったという。

 もともとJRが2千人未満の線区を協議対象にするよう求めた経緯を踏まえ、ある国交省幹部は「2千人以上の線区は存続できるのではないか」とみる。

 では、なぜ「4千人未満」という数字が出てきたのか。これは1980年成立の国鉄再建法で用いられた基準値だ。原則として77~79年度の輸送密度が4千人未満の路線を「特定地方交通線」と位置付けて廃止し、バスに転換するか、地元出資の第三セクターなど国鉄以外の事業者に引き継がせるとした。

 とはいえ、4千人未満の路線でも、並行する道路の未整備などでバスへの転換が難しいと判断された場合は、「除外規定」により民営化されたJRがそのまま引き継いだ。三江線(江津-三次)もその一つ。ただし沿線人口の減少で客足は低迷し、5年前に廃止へ追い込まれた。

 当時と違い、各地とも周辺の道路整備が進んでおり、今回は除外規定は通用しそうにない。

 対象拡大には、最初から特定の線区に絞るのではなく、中立の立場からデータなどに基づく丁寧な合意形成を後押しするという思惑もあるようだ。優先度が高い線区の〝被害者意識〟を緩和したいのだろうが、他線区の関係者を混乱させるだけだ。

 山陰両県で見れば、協議入りの優先度が高い千人未満に木次線と因美線が、2千人未満まで広げると山口線も含まれる。

 三江線の存廃では、地元自治体が三セク移行を模索したもののコストが折り合わず、バス転換した経緯がある。バスはダイヤや乗降が自由で利便性が高まるとの触れ込みだったが、実際の利用は伸び悩んでいる。

 国交省は千人未満にもかかわらず協議入りしない場合は、自治体に働きかけることも視野に入れているという。対象自治体は確固たる将来ビジョンを描いて協議に臨まなければ、地域はさらに縮んでしまいかねない。