改正入管難民法が成立した。現行法では非正規滞在の外国人に強制退去を命じても、難民認定の申請中なら回数や理由を問わず送還の手続きを停止するが、それを2回までとし、3回目以降は「難民認定すべき相当の理由」がない限り送還できるようにした。日本にとどまりたい一部の外国人が難民申請を乱用していると政府は説明する。
また送還を拒み、航空機内で暴れるなどの妨害行為に刑事罰を設けた。一方で、入管施設に収容せずに親族や知人、支援者らの監督下で暮らせるようにする「監理措置」も導入。内外で厳しい批判にさらされた入管施設における長期収容問題の解決を図りたい考えだ。
しかし、多くの課題を積み残した。欧米に比べ、日本の難民認定率は桁違いに低い。法案審議では不認定に対する不服申し立てを巡り、審査する有識者ら「難民審査参与員」のうち、不認定を支持しそうな人に入管当局が案件を多く配分していた疑いが表面化。一部の参与員も強い疑問を投げかけ、難民認定の公平性が大きく揺らいでいる。
中立の第三者機関による難民認定や、収容を巡る司法審査、収容期間の上限設定など、専門家や支援団体が求めてきた制度改正の検討は棚上げされた。難民を絞り込む思惑が先行し、人権を置き去りにしたと言うほかない。抜本的な見直しに向け、批判と議論を絶やさないようにしたい。
出入国在留管理庁によると、退去命令が出ても帰国を拒む「送還忌避者」は昨年末の時点で4233人。前年の3224人から大幅に増えた。支援団体は、難民認定率が低いため申請を繰り返さざるを得ず、申請回数の制限で難民として保護されるべき人が迫害の恐れのある本国に送還される危険があると訴える。
そんな中、難民審査参与員の不服審査に厳しい視線が注がれた。参与員は111人。3人一組で審査を受け持つ。その1人は2年前、国会の参考人質疑で「難民を探して認定したいと思っているのに、ほとんど見つけられない」と発言した。政府は発言を法案の説明資料や国会答弁で引用。難民認定率が低いのは申請者に難民がほとんどいないからという立場を取る。ところが法案審議の過程で、この参与員が昨年、全審査件数の4分の1を超える1200件余りに携わるなど、ごく一部の人に案件が集中的に振り分けられていたことが明らかになった。
恣意(しい)的で不公平な運用の疑念を拭えない。入管庁が強制送還と難民保護の両方を所管しているため、こういう問題が起きる。難民認定は第三者機関に担わせるという野党の対案は今回日の目を見なかったが、改めて議論する必要があろう。
名古屋出入国在留管理局の施設で2021年3月に収容中のスリランカ人女性が死亡。収容を巡って人権軽視の批判と反発が渦巻き、今回のものとほとんど変わらない法案が廃案になった。入管庁は職員が体調不良の訴えにまともに取り合おうとしなかったとし、全職員に意識改革を求めた。
しかし先月末には、大阪出入国在留管理局で常勤の女性医師が酒に酔った状態で収容者を診察していたとされる不祥事が発覚。入管行政に対する不信は増すばかりだ。政府は目の前に山積する課題から目をそらさず、一つ一つ着実に克服していかなければならない。