4月4日、米ニューヨーク・マンハッタンの検察に出頭するトランプ前大統領(ゲッティ=共同)
4月4日、米ニューヨーク・マンハッタンの検察に出頭するトランプ前大統領(ゲッティ=共同)

 私邸への国家機密の文書持ち出しを巡って、米連邦大陪審はトランプ前大統領(共和党)を起訴した。トランプ氏には真実を語ってほしい。捜査と起訴に「政治的魔女狩り」とレッテル貼りするキャンペーンは不要だ。「無実」であるのなら法廷で本当のことだけを口にすべきだ。来年の大統領選挙で再起を宣言したトランプ氏にとって、それこそが責務となる。

 今回の事件では、南部フロリダ州の私邸マールアラーゴから連邦捜査局(FBI)が家宅捜索などを通じて300点以上の機密文書を発見、特別検察官が捜査していた。

 CNNテレビなどによると、罪状は国防機密を持ち出したスパイ防止法違反のほか偽証罪、司法妨害した共謀罪など七つで、いずれも重罪だ。国際安全保障に関する情報も含まれるとの見方があり、日本としても看過できまい。

 3月に不倫もみ消し問題でニューヨーク州法に違反したとして起訴された際、トランプ氏は民主党政権による「魔女狩り的な捜査だ」と反発した。今回も「腐敗したバイデン政権」による大統領選挙への妨害工作だと主張する。

 歴代の大統領経験者で初めて連邦法違反に問われた不名誉を無実で打ち消したいなら、法廷で真実を語ることだけが選択肢のはずだ。

 トランプ氏は、一貫して真実の価値に背を向ける大統領だった。

 まず政権の幕開けであった2017年1月の就任式では、自分を祝福するための人出が「過去最多」だったと誇示した。前任のオバマ氏就任時と比較して少なかったと指摘されると、側近に「もう一つの事実」が存在すると反論させた。

 ロシアとの関係や女性問題でメディアなどに数々の疑惑を暴露されても、「民主党の陰謀」「フェイクメディアの誤報」として自らの潔白を証明する努力は見せなかった。そうした政治姿勢が20年の大統領選挙を巡る陰謀論を生み出した。

 民主党のバイデン氏に敗北した後、「大規模な不正があった」と事実の受け入れを否定、陣営や支持者は選挙無効認定などを求める訴訟を次々と起こした。訴訟はほぼ全敗だったが、激戦となったジョージア州では、結果を覆すため自身の票を「見つけろ」と電話で州務長官を脅したとされる。

 同州への圧力問題では7月にも地元の検察当局が起訴するかどうかの結論を出す見通しだ。また21年1月の連邦議会議事堂襲撃事件で群衆を扇動した疑いでも捜査が続いており、米国民は今後もトランプ氏に真実を求め続けるだろう。一度負けた選挙で復帰を目指している以上、その責務は以前より重く、逃げられない。

 もし自分の岩盤支持層だけを頼りに混戦となっている共和党の大統領候補指名レースを勝ち抜き、来年11月の本選でバイデン氏を倒せると思うなら、それは間違いだ。

 無党派層や共和党穏健派は、長く続いたトランプ氏や側近による「もう一つの事実」という名のうそを見抜いている。一連のトランプ派による選挙陰謀論や議会襲撃は米国の民主主義と威厳を傷つけた。「米国を再び偉大にする」と宣言した以上、大量の書類を私物化した経緯や動機を明らかにすることを期待する。それができないなら、大統領選挙戦から撤退すべきだ。