基本法成立を受けて記者会見する、認知症の人と家族の会の鎌田松代代表理事(中央)ら=14日午後、厚労省
基本法成立を受けて記者会見する、認知症の人と家族の会の鎌田松代代表理事(中央)ら=14日午後、厚労省

 認知症基本法が超党派の議員立法で成立した。認知症の人たちと「共生する社会」の推進と、本人や家族の意見を関連施策に反映させることを大きな柱に位置付けた。

 認知症高齢者は増え続け、介護保険を利用する施設や通所のケアが追いつくか心配だ。仕事を続けながらの治療を望む若年性認知症の人も多い。今後は彼らを特別視せず、住み慣れた地域の中で支え合い安全に暮らしてもらう社会が求められる。基本法成立をそこへ向けた第一歩としたい。

 まだ根本的な治療法がない認知症の高齢者は、推計で2020年に約600万人だが、団塊の世代が全て75歳以上になる25年には高齢者の5人に1人、約700万人に増える。65歳未満で発症する若年性認知症の人も全国に約3万5千人と推計され、家計を維持し治療費を確保するため、就労とケアの両立が重要テーマになっている。

 認知症の人は環境の変化に弱い。住み慣れた地域で顔なじみの人と暮らすことが、ケアの基本だ。それに沿って認知症対応型通所介護(デイサービス)、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)などが、認知症高齢者を支えている。

 このほか、全国の精神科病床に20年6月時点で入院していた約27万人のうち、約4万8千人を認知症の人が占めた。待機者が多い特別養護老人ホーム(特養)にも重い認知症の人たちが入居する。認知症の人が増え続ければ、これらケアは体制面でも、社会保障の財政面でも厳しい状況になろう。

 基本法は「認知症の人が尊厳を保持し、希望を持って暮らす」ことを目的に明示。当事者の社会参加機会の確保や、相談体制整備、国民の理解促進などを基本施策に盛り込んだ。「予防」を強調した19年の認知症施策推進大綱に対し、当事者との「共生」をより前面に押し出したのが特徴だ。

 高齢化が進み、単身の高齢者や高齢夫婦のみの世帯も増えている。介護保険サービスが行き届かず、見守る家族らもいない認知症高齢者が、地域の一員として安心して暮らせる機能を社会が持たなければならない。与野党が協力し、当事者や家族らの声を聴きながら策定した基本法の目指す方向は妥当だ。

 ただ「共生社会」を確立する具体的政策の決定、実行はこれからだ。

 市民が認知症に関する知識を持って地域で活動する「認知症サポーター」は1400万人を超えた。しかし、スーパーのセルフレジ、飲食店のタブレット注文、銀行のATMなど、認知症の人を疎外し、生活しづらくする要因はデジタル化によりむしろ増えている。一つ一つ手当てしていきたい。

 認知症やその疑いがあり、行方不明者として22年に全国の警察に届け出があったのは延べ1万8709人。10年でほぼ倍増のペースだ。40年ごろの高齢化ピークへ向け、増加はさらに続くだろう。

 だからといって、家族が認知症の人を閉じ込めるなど、生活を不適切に制約するのは避けたい。そのためにも、警察と自治体、地域の団体、企業などが連携し、認知症高齢者の見守り、早期発見の態勢を一日でも早く構築しなければならない。それが、安心して共生できる社会の実現へ向けた大前提となるのは言うまでもない。