アラブ首長国連邦(UAE)からカタールに向かう岸田首相=18日、アブダビ国際空港(共同)
アラブ首長国連邦(UAE)からカタールに向かう岸田首相=18日、アブダビ国際空港(共同)

 岸田文雄首相は欧州での北大西洋条約機構(NATO)首脳会議への出席や欧州連合(EU)との定期首脳協議に続き、サウジアラビアなど中東3カ国の訪問を終えた。

 欧州ではNATOとの間でサイバー防衛や宇宙安全保障など16分野への協力拡大を打ち出す新文書を発表。中東では脱炭素社会の実現に向けて太陽光や水素などクリーンエネルギー分野での協力を確認した。

 ただ、一連の外遊の底流には、軍事、経済など各分野で影響力を拡大する中国への対処が念頭にある。それを象徴するのが「戦略対話」という言葉だ。首相はEUとの定期協議で、安全保障面での協力推進を協議する外相級の戦略対話の創設で合意。サウジアラビアとの会談でも戦略対話の創設を決定した。アラブ首長国連邦(UAE)、カタールとも防衛当局間の協議促進を確認した。

 その狙いは、欧州や中東諸国の意識を東アジアに向けさせ、「対中包囲網」での連携を図ろうということだろう。ただ、中国は存在感を拡大させており、日本の働きかけが一方的に奏功するとは考えにくい。何よりも優先すべきなのは東アジア地域の安定であり、そのためには中国との対話が不可欠だ。

 米国と中国の間では、国務長官、財務長官に続いて気候変動問題を担当する大統領特使が訪中するなどハイレベルの対話が加速している。その狙いはバイデン大統領と習近平国家主席との年内の首脳会談実現とされる。

 一方、日中間では昨年11月以降、岸田首相と習主席の会談は行われていない。その要因としては、中国の対外姿勢を「最大の戦略的な挑戦」と位置付けた昨年12月の「国家安全保障戦略」策定などが指摘される。ただ、米中の対話の機運を生かし、日中間も対話を通じた意思疎通を図るべきだ。中国へのけん制と同時に、対話の戦略を示すよう求めたい。

 自由、法の支配などの価値観を共有する日本と欧州が連携を強化するのは当然と言える。ただ、慎重な対応が求められるのはNATOとの関係だ。首相とNATO事務総長との会談で合意された今後4年間の「国別適合パートナーシップ計画」(ITPP)は、両者の協力を「新たな高みへと引き上げる」と明記。「インド太平洋の状況は欧州大西洋の安全保障にも影響する」と指摘し、NATO演習への自衛隊の参加拡充や緊急援助での共同行動を打ち出した。

 しかし、NATOは北大西洋での米欧の軍事同盟であり、加盟国は集団的自衛権によって互いに援助する関係にある。軍事同盟との連携が地域の緊張を高めることになってはならない。連携には一定の限界があろう。

 NATO内でも対中対応で意見が一致しているわけではない。NATOの連絡事務所を東京に置く構想にはフランスが反対し、進展はなかった。

 中東では、米国の影響力が低下する一方で中国が存在感を増し、今年3月にはイランとサウジの外交関係正常化を仲介した。首相の中東訪問は2020年1月以来、3年半ぶりだ。原油輸入の大半を中東に頼りながら、出遅れ感は否めない。

 各国が中国を懸念するのは、ウクライナを侵攻したロシアと連携しながら、覇権主義を強める行動にある。日本としても対話を通じて自制を促す外交戦略を示したい。