デジタル庁が入る民間ビル。政府の個人情報保護委員会がマイナンバー法に基づく立ち入り検査を始めた=19日、東京都千代田区
デジタル庁が入る民間ビル。政府の個人情報保護委員会がマイナンバー法に基づく立ち入り検査を始めた=19日、東京都千代田区

 マイナンバーを巡る誤登録トラブルで、政府の個人情報保護委員会は行政指導を視野にデジタル庁を立ち入り検査した。

 政府はマイナンバーへの公金受取口座ひも付けを呼びかけている。その手続きで自治体窓口を訪れた人や自治体の支援員が、前の利用者がログアウトしていない共用端末を使うなどして誤登録が相次いだ。委員会はデジタル庁の報告内容が不十分として検査に踏み切った。独立した委員会として厳正な対応を求めたい。

 埼玉県所沢市では、誤登録が原因で他人口座への誤入金まで現実に起きてしまった。自治体側のミスとしても、国のリスク管理と対策に不備があるとする委員会の指摘は妥当だ。全国民の個人情報を扱うデジタル庁は重く受け止めるべきだ。

 マイナンバー制度は国の事業だが、各種情報のひも付けは、預貯金口座なら自治体、健康保険証情報は健康保険組合などが実際の事務を担う。しかし、作業マニュアルを徹底するなど個人情報の取り扱いを適正に管理し、問題があれば直ちに対策を取るのは国の責任だ。

 政府は今年3月末までにマイナカードを「ほぼ全国民に行き渡らせる」と目標を掲げた。さらにカードに保険証機能を持たせて来年秋に現行保険証を廃止すると法律で決め、自治体などの尻をたたいてきた。混乱の元は性急すぎたマイナ普及のやり方ではなかったか。

 目標達成に向け政府は昨年6月、最大2万円分付与する「マイナポイント第2弾」を開始。保険証廃止方針も示したためカード申請が急増し、ミスが相次いだ。知的障害者向けの療育手帳情報とマイナンバーのひも付けを2336件誤った宮崎県では、ほぼ1人の職員が作業し、チェックが不十分だった。

 疲弊する現場をよそに、政府は6月末で保有カードが9300万枚を超えたと胸を張った。だがそこには死亡や返納で廃止された約490万枚の「げた」が履かされていたことが判明。これを見ても、いかに数字達成ありきだったか明らかだ。

 中核市市長会長の木幡浩福島市長は「短期間に取得率を上げようと国はエンジンを吹かし、自治体の現場で無理がたたった」と言う。重い指摘だ。

 マイナカードを使った公的証明書の交付サービスは、別人の住民票写しの交付などを防ぐシステム改修が44自治体で実施されていなかった。富士通の子会社がシステムを提供する123自治体のうち3割超で、過去に行った修正が反映されなかったのが原因という。松本剛明総務相は「富士通本社もしっかり監督を」と言ったが、行政サービスが適正か否か確認する責任まで民間に丸投げでは済むまい。

 政府は29項目の個人情報についてマイナンバーが正確に登録されているか秋までに総点検する方針だ。ただ、ここでも実際に点検するのは自治体や健康保険組合などだ。膨大な突貫作業を課された自治体は要員確保や人件費増大に頭を抱える。さらに今は、各地で豪雨被害対策に追われている。現場の声を聞きながら無理なく進めるべきだ。

 河野太郎デジタル相は菅内閣の閣僚当時、ワクチン接種推進を担当。「7月末までに高齢者接種完了」と高い目標を推し進め、現場を鼓舞して成果を上げた。同じ手法が常に妥当とは限らない。混乱を反省し、早期正常化で結果を出してほしい。