JR木次線(宍道-備後落合)をはじめ、輸送密度(1キロ当たりの1日平均乗客数)が千人未満にとどまる地方鉄道の存廃が注目を集めている。国土交通省は、千人未満は利用状況が危機的で「特に優先度が高い線区」として、沿線自治体や事業者に存廃協議に入るよう促す。
いずれの線区もマイカーの普及による利用者の減少に、新型コロナウイルス禍が追い打ちをかけた形。そして、その根本にあるのが沿線人口の減少だ。
7月の3連休を利用し、木次線の基点となる備後落合駅(広島県庄原市西城町)を訪ねた。中国山地の谷あいに位置し、広島、岡山両県を結ぶJR芸備線との結節点。1950~90年代まで米子・松江-広島を結ぶ急行「ちどり」が運行され、国鉄時代の最盛期は110人以上がこの駅で勤務していたという。
ところが、山陽新幹線の開業や伯備線の電化、マイカーの普及、高速バスの隆盛で利用客は激減。駅は無人化された。駅のある西城町の人口も35年の1万1965人をピークに減少し、6月末現在で2975人。島根県内の沿線自治体も同様だ。
芸備線と木次線の列車が走るものの、時刻表に載っているのは、11月で運行を終えるトロッコ列車「奥出雲おろち号」を含めて1日12本ほど。駅舎は誰もいない閑散とした時間が続く。
唯一にぎわったのが午後2時半前後。芸備線のホームに三次行き、別のホームに宍道へ向けて折り返す木次線の列車が到着した。本来なら新見へ向かう芸備線の列車も並ぶはずだが、落石の影響でタクシーによる代行輸送に変更されていた。
それでも乗り換えや写真撮影で30人近くが下車。ほとんどが鉄道ファンだった。「今のうちに乗っておかないと、(2018年3月末で廃止された)三江線(江津-三次)のようにいつなくなるか分からない」という声も聞いた。三江線を踏まえ、木次線の廃止は「既定路線」と捉えているファンは多いようだ。
とはいえ、存続を願う声は多い。「自転車を載せることができるサイクルトレインに」「修学旅行に利用を」「出雲大社とセットで奥出雲地方をアピールして」「貨物を一緒に載せる貨客混載輸送にしては」…。本紙にも、存続に向けたアイデアが寄せられている。やれることはまだあるはずだ。
思えば島根県内唯一の百貨店である一畑百貨店(松江市朝日町)の閉店発表や、鳥取県内のJA系スーパー閉店による買い物難民の懸念など、今年に入って暗いニュースが続いている。その理由を探ると、共通するのが人口減少社会。このまま策を打たなければ、地域はますます縮んでしまいかねない。
木次線の存廃が取り沙汰される一方で、山陰では経済界を中心に、大阪から両県を経由して山口県下関市を結ぶ山陰新幹線と、現在の伯備線をルートに岡山と松江をつなぐ中国横断新幹線の計画を実現させようという活動が活発化している。
住民からは「人口が減る中で不要だ」「財政負担が増えるだけで効果は薄い」といった否定的な意見も聞こえてくる。
確かに荒唐無稽に思う人も多いだろう。だが、現状を打破するには斬新なアイデアが欠かせない。今こそ知恵を結集して、人口減少社会に抗(あらが)おう。