「災害級の暑さ」という表現が頻繁に使われるようになったのは、2018年ごろからだという。この年の夏は西日本豪雨の被災地を含め、各地が記録的猛暑に苦しんだ。
近年、熱中症による全国の死者が千人を超える年が多い。一方で、防災白書によると、22年までの10年間で自然災害による死者・行方不明者が千人を上回った年はない。熱中症は「災害そのもの」との認識で、対応に力を注ぐべきだろう。
梅雨が明けた日本列島で、今年も厳しい暑さが続いている。この時期は、本格的な暑さに体がまだ慣れておらず、熱中症のリスクが特に高い。
残念ながら、高温状態が落ち着く出口は見えていない。気象庁は、9~10月にかけても厳しい残暑が続くとみている。自分の身を守るよう心がけ、長丁場を無事に乗り切りたい。
世界気象機関(WMO)は7月、南米ペルー沖の海水温が上がるエルニーニョ現象が発生したと発表した。世界各地に異常気象をもたらすこの現象が起きると、これまで日本は冷夏になりやすいとされてきた。
しかし、気象庁は今回、日本は当面暖かい空気に覆われやすいとの見方を強めている。温暖化で地球全体が高温状態になっているのに加え、インド洋熱帯域の水温が南東部で低く、西側で高くなる「正のインド洋ダイポールモード現象」が起きる可能性があるとする。この現象が起きると、高気圧が日本に張り出しやすくなり、エルニーニョによる日本の夏の低温傾向を弱める影響があるようだ。
さらに、エルニーニョ現象とは反対の「ラニーニャ現象」の「名残」を指摘する研究者もいる。ラニーニャ現象では太平洋西部に暖かい海水がたまり、日本の夏は気温が高くなるとされる。21年秋からラニーニャ現象が続き、気象庁は今年3月「終息したとみられる」と発表したが、太平洋西部には暖かい海水がとどまっており、日本にもラニーニャに似た影響が残るというのだ。
懸念される熱中症は予防が大切と言われて久しい。水分や塩分を補給し、睡眠や休養を十分に取ることが求められる。体温の調節機能が発達していない子どもや、機能が衰えた高齢者は特に周囲の目配りが必要だ。
炎天下で長時間過ごすのは危険で、日傘や帽子もまめに使いたい。めまいや立ちくらみ、手足のしびれといった初期症状、熱中症のサインを見逃さないことが重要だ。
屋内で熱中症になる人が多いことにも注意したい。エアコンを使うよう自治体が呼びかけても、高騰する電気料金を気にして控える人は少なくないようだ。
7月下旬、東京都世田谷区の公共施設は、冷房が効いた室内で一息つく高齢者や親子連れでにぎわっていた。区が指定した休憩所の一つだ。昼間のエアコン代を浮かそうと来ている人もいた。
4月に改正気候変動適応法が成立し、24年から、極端な高温の恐れがあると「特別警戒アラート」が発表されることになった。発出されれば自治体は事前に指定した避難施設「クーリングシェルター」を開放する。
世田谷区の取り組みはこの流れに先行する動きだ。各自治体も来年を待たず、暑さや日差しを一時的にしのげる施設や水分の提供を検討してほしい。