「ワンチャン」は元はマージャン用語
「ワンチャン」は元はマージャン用語
桑本裕二さん
桑本裕二さん
「ワンチャン」は元はマージャン用語
桑本裕二さん

 気になる若者ことばがある。それは「ワンチャン」。

(1)「人気のラーメン屋、今から入れるかな?」-「ワンチャンいける!」

(2)「何食べる? 中華?」-「ワンチャンあり!」

 (1)は「もしかしたら」に言い換え可能、(2)は「選択肢として」の意味になる。ある一定の年齢以上の者にとっては、すぐに意味を理解するのが困難である。

 元になったと思われるのは、おそらく英語の「one chance」で、カタカナで「ワンチャンス」となって、最後が省略されて「ワンチャン」となった。英語の「one chance」は直訳すると「一度の機会」。「(万に)一つの機会」と解釈すると、そこから(1)の「もしかしたら」の意味になり、「(いくつかある中で)一つの機会(↓場合、選択肢)」とでも解釈すれば、(2)の意味になるというわけである。

 ただし、英語で「one chance」または「It’s one chance!」などといったところで「もしかしたらそうなる」など、意味のある発言になることはない。

 マージャン用語で「ワンチャンス」また「ワンチャン」と言えば、4枚ある同一牌(はい)のうち、3枚がすでに捨て牌の中にあり、結果として最後に残った1枚のことで、他者がその1枚で上がりとなれば、最後の1枚をものにしたことになり、「そんなことはよもやあるまい」と思って「ワンチャン!」と言って、手牌の中のその1枚を捨てるというものだ。

 つまり、この場合の「ワンチャン!」は、相手が和了(ホーラ)(上がり)にならないという、相手の願望がかなわないことを望むものなので、上記(1)の「ワンチャン」とはだいぶん意味合いが違う。まして(2)の解釈は成り立たない。

 そもそも、若者ことばについては、ある一定年代以上の、その使い手の中心にいない者がとやかく言うべきではないが、本来の意味からあまりにも逸脱している場合、どうしても眉をひそめざるを得ない。

     ◇

 時代とともに変化する言葉の面白さを米子高等専門学校非常勤講師の桑本裕二さん(55)につづってもらう。

 くわもと・ゆうじ 1968年生まれ、倉吉市出身。倉吉東高校卒。東北大大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。専門は言語学、音韻論。著書に『ふるさとのことば|倉吉弁| メディアと研究の狭間で』(共著、山陰中央新報社)など。倉吉市在住。