福岡県飯塚市で2日あった将棋の第32期女流王位戦5番勝負第3局に勝ってタイトルを防衛した里見香奈女流四冠(29)は、女流通算タイトル数史上最多の44期という歴史的な記録を樹立しても「(44期は)大変光栄。実感がない」と自然体のまま。多くの女流棋士の目標となる立場になっても「数字への執着はなく、目の前の対局に今までと変わらず頑張りたい」と話し、気負いはなかった。 (佐貫公哉)
巧みなリードにより勝勢をつかんだ前の第1、2局と違い、第3局は予断を許さない攻防が続いた。が、最後は「出雲のイナズマ」と形容される終盤力を発揮。10代から変わらない持ち味で押し切った。
最初のタイトル獲得は大社高校2年だった2008年の倉敷藤花。相手は手本として尊敬する清水市代女流七段(52)だった。
通算タイトル数43期の清水女流七段は、自身の記録を超えた後輩に「初めてタイトル戦で盤を挟んだ日や、時のたつのも忘れるほど語り合った日を懐かしく思い出している。43期を越す最初の方が敬愛する里見女流四冠であることをとてもうれしく、誇りに思う」とエールを送った。
里見女流四冠は44期までの歩みを振り返り「いろいろと戦ってゆく中で励みになったのは地元があること。帰る場所があるのは自分の強み」と古里・出雲の大きな支えに感謝した。
島根の恩師や支援者祝福
大社高校在学中の16歳で初タイトルの倉敷藤花を獲得して以来、16年4カ月のハイペースで女流タイトル通算44期を成し遂げた里見香奈女流王位。10代からの活躍を知る島根の関係者からは偉業を祝福する声が相次いだ。
里見女流王位の父里見彰さん(60)=出雲市里方町=は、娘が幼い頃から目標にしてきた清水市代女流七段の記録を抜いたことに感慨深げだ。
彰さんは将棋をまだ始めていない幼稚園児だった娘を、出雲市を訪れた清水女流七段に会わせたことがあった。「今思えば、自分の子どもがあの清水さんを抜くなんて思ってもなかった」と振り返った。
アマチュア時代の里見香奈さんを指導していた柳浦正明さん(74)=松江市末次本町=は「昔から非常に負けず嫌いで勉強熱心だった」と、努力家だった姿が目に浮かぶ。「これから年齢的に上になり、追われる立場になったが体調に気をつけて」とねぎらった。
小学生時代のライバルで現在は将棋教室を開いている来海孝之さん(28)=大阪府=は「周囲からはおめでたいことではあるが里見さん本人にとっては勝って当たり前という感じだと思う」とずばぬけた実力を評価。「将棋が好きで心が折れず努力し続けていて本当にすごい」とたたえた。
現在女流四冠を保持する里見女流王位への期待は地元でも大きい。里見香奈後援会の山根隆治理事(71)=出雲市大社町北荒木=は「いつも全身で応援している。タイトル戦が続く中、体にも気をつけてまた元気で地元にも帰ってきてほしい」と祝福した。
(坂上晴香)
「一般棋戦でも頑張る」 一問一答
タイトル最多の通算44期を獲得した里見香奈女流王位の一問一答は次の通り。
―今の気持ちは。
「ほっとしている。大変、光栄なことだと思う」
―今期の5番勝負を振り返って。
「山根ことみさんは幅広い戦型を指される。指していく中で棋風を知っていった。手探りの部分もあった」
―清水市代女流七段を抜いた。
「時代もタイトル数も違うので比較にならない。尊敬している先輩なので、自分も成長していきたい」
―獲得してうれしかったタイトルは。
「初タイトルの倉敷藤花(2008年)と女流名人(10年)を初めて取ったのが印象に残っている」
―プロ編入試験については。 「今はあまり考えていない。(男性の)一般棋戦でも勝てるよう頑張りたい」














