アルバム「トリニティ・セッション」
アルバム「トリニティ・セッション」

 熱帯夜にはカウボーイ・ジャンキーズのアルバム「トリニティ・セッション」を流したくなる。真夜中の静けさの中で、風は一向に入ってこない網戸を越えてくるかすかな虫の声を受け入れつつ、ささやくような女性ボーカル、マーゴ・ティミンズが歌うスローナンバーに聴き入れば、少しは蒸し暑さを忘れられる。英語のクール(cool)には「涼しい」と「かっこいい」の意味があるが、カナダのこのバンドは両方の意味でクールな音楽を聴かせてくれる。

 1988年に発表した2枚目のアルバムでメジャーデビュー作。トロントにある聖トリニティ教会で一発録音した、客のいないライブ盤だ。現場を見たわけでもないのに、人けのない、天井の高い教会の空間を勝手に想像してしまうのも涼感を生む効果になっているのかもしれない。そこで奏でられた、カントリーやフォーク、ブルース、ジャズなど多様な音楽的背景を感じさせるアコースティックサウンドは静謐(せいひつ)という言葉がふさわしい。

 オリジナル曲に複数のカバー曲、そのどれもが味わい深く、中でもルー・リード率いるベルベット・アンダーグラウンドのカバー「スウィート・ジェーン」は曲に新たな命を吹き込んだ。

 シンプルなのに、不思議なほどオリジナルなアルバムである。(洋)

「トリニティ・セッション」に続くアルバム「ザ・コーション・ホーシス」(1991年)も秀逸