南米アンデスのフォルクローレの定番曲「コンドルは飛んでいく」はエクアドル出身のサンポーニャ奏者レオ・ロハスの演奏が素晴らしい。2012年のアルバム「スピリット・オブ・ザ・ホーク」に収録。ドラムやキーボードを入れてポップに仕立て、川のせせらぎや鳥の鳴き声も入れて自然の情景を思わせる。聴きどころはロハスのサンポーニャ。リズムに乗ったタメのある吹き方や、かすれを強調した吹き方がいい。

 サンポーニャは底がふさがっていて長さの違う管を束ねた笛で、瓶の口を吹いた時のような、かすれた音がする。ロハスは同じくアンデスの笛で尺八に似たケーナも吹く。ドイツに渡ってテレビのオーディション番組で一躍注目された。アンデスの笛の音をシンセで再現したバンド、クスコの古里ドイツで評価されたというのが面白い。

レオ・ロハスのアルバム「スピリット・オブ・ザ・ホーク」

 「コンドルは飛んでいく」は1970年に米国のフォークデュオ、サイモン&ガーファンクルがカバーして広く知らしめた。2人はロス・インカスの演奏でこの曲を知ったらしく、バックで民族楽器を奏でるのはロス・インカスだ。

 欧州で活動したアルゼンチン人らのバンドで、ロス・インカス版「コンドルは飛んでいく」は前半の叙情詩と後半の舞曲で構成する伝統的な形式。よく知られる哀愁漂うメロディーは叙情詩で、サイモン&ガーファンクルも、ロハスも、ここしか演奏していない。叙情詩だけでも良い曲だが、舞曲と組み合わさると、フォルクローレ感が増す。ロス・インカス版だと、ヒャー、ハッハー…と掛け声が入ってアップテンポの舞曲に替わる。これがいい。

クリスティーナとウーゴのベスト盤「花祭り~クリスティーナとウーゴ」

 アルゼンチンの夫婦デュオ、クリスティーナとウーゴの演奏も伝統的な形式で舞曲でのクリスティーナの歌声が圧巻。ホハハハ、フフーフ、フフフフー…と高い声を転がすように歌う。クラシックの歌唱法でコロラトゥーラというのがあるそうだが、そんな感じ。

 フォルクローレの定番曲「花祭り」でも、すごいコロラトゥーラを聴かせる。初めて聴いた時、人間の声でなく、ケーナの音かと思ったほど。スタジオ録音よりライブ演奏がアップテンポで圧倒的にいい。1978年の東京でのライブが入ったCDを探して買った。

 クリスティーナの肉声も入っていて「たくさん、手拍子」「もっと、もっと」と客に呼びかける。元気いっぱいの「オラー」(スペイン語の『こんにちは』)も聞ける。35歳の若さだった86年に夫ウーゴとともに交通事故で亡くなったことが惜しまれ、切なくなる。
 (志)