聞くといつも、50歳を過ぎたくたびれた男に若かりし日の気分をよみがえらせてくれるアルバムがある。アズテック・カメラの「ハイ・ランド、ハード・レイン」(1983年)。軽やかなギターが何よりも印象的で、ネオ・アコースティック(ネオアコ)勢の旗手とされたバンドの爽やかな風のような一作だ。
振り返ってみると、ネオアコに夢中になったきっかけは、1990年代に日本で「渋谷系」と称されて高い人気を誇ったバンド「フリッパーズ・ギター」から。学生だった当時は東京23区外の小平、武蔵小金井に住んでおり、都心のしゃれたライフスタイルとは全くかけ離れていたが、心弾む彼らのギター・ポップサウンドのとりこになり、彼らが雑誌などで薦めるネオアコ・バンドを聞きあさった。

アズテック・カメラは、スコットランド・グラスゴー近郊の町出身でボーカルとギターのロディ・フレイムを中心とした4人組。ロディが英国の名門インディーレーベル「ラフ・トレード」から冒頭のファーストアルバムを発表したのは19歳の時。収録曲のこの上ないみずみずしさも当然といったところか。
デビュー作にして代表作。全10曲(CD盤はボーナストラック3曲も収録)、まさに捨て曲なしの名盤で、特にLP盤で言えば1曲目の「Oblivious(邦題・思い出のサニー・ビート)」からのA面5曲とB面1曲目の「Pillar To Post」までポジティブでセンチメントな曲調が続き、何度繰り返し聞いたことか。
戻りたいと思っても戻れない青春のときめきのようなものが、この一枚をターンテーブルに載せると、にわかに立ち上がってくる。

若い頃を振り返ってみれば、このアルバムのようなはつらつとした日々を送っていたかというと、そんなこともなかったような気がする。人は過去を美化する生き物だと思ったりもするが、とにかく人生を前向きにさせてくれる一枚だ。
他にも佳作はあるが、特に好きなのは、がんで先日亡くなった坂本龍一を共同プロデューサーとして迎えた5枚目のアルバム「ドリームランド」(1993年)で、円熟味を増した曲の数々に引き込まれる。特に気に入っているのは5曲目の「スパニッシュ・ホーシズ」。跳ねるギターにフリーキーなベースが組み合わさり、独特のグルーヴ感が心地よい。

英国発のネオアコ勢は多彩な顔ぶれを誇る。空中に跳ねる2頭のイルカのジャケットが印象的なデビュー作「ユー・キャント・ハイド・ユア・ラブ・フォーエバー」(1982年、邦題=キ・ラ・メ・キ・トゥモロー)で知られるオレンジジュース、「ラトルスネイク」(1984年)でデビューしたスコットランド出身のロイド・コール&ザ・コモーションズなどをはじめファンも多い。

興味を持たれた方には、ミュージックマガジン増刊CD Best100「ギター・ポップ・ジャンボリー」を格好のディスクガイドとしてお薦めする。同名のコンピレーション盤シリーズもある。
(川)