小6と中3の全員を対象にした今年の全国学力テストの結果が公表された。4年ぶり実施の中学英語では「読む・聞く・書く・話す」の4技能のうち、「話す」の平均正答率が12%と極端に低かった。前回より18ポイントも下がり、文部科学省は問題が難しかったと認めた上で「生徒の英語力が低下したとは判断できない」と釈明に追われた。
6割超もの生徒が1問も正解できず、問題作成に失敗したと言える。今回の狙いは2021年度から実施の新たな中学学習指導要領に基づき、「生きた英語」が身に付いたか試すことだったが、話す力を測る方法は再考するべきだ。
英語教育研究者で立教大名誉教授の鳥飼玖美子さんは「話す力を学力テストや入試のような一斉テストで測ること自体に無理がある」と話す。指導要領は「話すこと」を「やり取り」と「発表」に分けており、鳥飼さんは「やりとりする力を測るのは特に難しい。必要なら、スピーチのように発表する力に限るべきだ」と提言する。
今回、「話す」問題では生徒の過半数が「時間が足りなかった」と答えた。留学生と動物園を訪れた設定で話しかけられる問題は英語で7~20秒での返答を求めた。環境保護が題材の動画を見る問題は、説明を聞いて考えを1分で整理し、30秒で英語で話す内容だった。前回より場面設定や過程が複雑になり、デジタル端末で動画を見て答える形式に戸惑った生徒も多いだろう。このような出題では英語への苦手意識を植え付けるだけだ。
そもそも新指導要領の内容が高度すぎるという指摘も専門家から出ている。「ゆとり教育」で「学力低下」が批判され、指導要領の改定で教科内容が相当膨らんだ。英語で授業をするのが基本になり、単語数も以前の1200語程度から1600~1800語程度に増えて生徒の負担は重い。
実際、生徒へのアンケートで、英語が好きな中3は52%にとどまり、21年度に比べて5ポイント減った。「英語の授業がよく分かる」とした中3も2ポイント減の64%だった。
「書く」の平均正答率も24%と低調で、英語教育の現場からは「基礎が身に付いていない」との悲鳴が聞こえる。新型コロナウイルス禍で予定通りの授業ができなかった影響も大きいが、高度な内容を求めて空回りしていては元も子もない。
全員参加方式について、文科省は一人一人の課題を把握してきめ細かく対応するためと意義を強調するものの、現場に負荷がかかり、競争をあおるとの批判は根強い。全国学力テストは07年度に全員参加で始まり、民主党政権が約3割の学校を抽出する方式に変えたが、自民党の政権復帰で全員参加に戻った。
各自治体も学力調査をしており、屋上屋を架す感がある。約40億円もの巨費を投じて全員参加を続けるかどうか、実施自体の是非も含めて議論が必要ではないか。
「話す」以外の3技能の正答率は、大都市圏が上位に目立つ。地域の経済力の差を英語力の格差に直結させない対策が必要で、まずは徹底して基礎を教えるべきだ。次回の指導要領改定に向けた議論は今後本格化する。考えをまとめて表現する力の不足は今回も各教科で指摘された。根本的な課題を克服し、生きる力を身に付けられる教育を考える必要がある。