「食によって認知機能の改善や低下予防が可能か」は現在、科学的証明が進められている研究テーマだ。このほど開かれた「食から認知機能について考える会」などによる講演会では、国立長寿医療研究センター(長寿研、愛知県)が続けている長期追跡調査から、おかずがたくさんある食事ほど認知機能低下リスクが抑えられるとの研究結果が報告された。
世界的には野菜や魚介類が豊富な「地中海食」は認知機能低下を予防するとのエビデンス(証明)があるとされている。
長寿研の老化疫学研究部の大塚礼部長は「日本も魚介類摂取量は世界トップレベル。米穀中心の日本食でも科学的証明が欲しい」と話す。
長寿研は「認知症予防に関する栄養疫学研究」を1997年から進めている。愛知県在住の40~79歳を対象に無作為抽出で約2300人を選び、2~3年間隔で「老化の進行過程の解明」などをテーマに繰り返し詳しい調査をしてきた。
「栄養学的には、ドコサヘキサエン酸(DHA)や豆類のイソフラボン、ココナツオイルやチーズなどに多い短鎖・中鎖脂肪酸、リジンなどのアミノ酸が多いと認知機能低下リスクを下げることが分かった」
食品の中では認知機能の維持と強い関連を示したのは、穀類と乳製品の二つだったという。
普通は穀類が多いほど、また、うどんやラーメンなど小麦ベースの麺類も多いと、認知機能低下が進むとされる。
「実際は、これら自体のせいではなく、おかずが少ないためではないかと思われた。そこで、おかずが少ない食事は認知機能低下リスクを増大させるという仮説を立て、食事の多様性に着眼して研究を進めた」
「食多様性スコア」を作り、点数化して、多様性の高さで順に4群に分けて比較してみた。
「その結果、食品摂取に多様性があるほど認知機能低下リスクが抑えられることが統計的にきれいに出た。さまざまな食品を取るほど低下リスクを防ぐことが分かった」
多様性を男女で比べると女性の方が多様性が高い。これは世界的に同じ傾向という。
「調査には3日間の食事記録の項目があり、例えば、多様性が低い60代男性の場合、朝はメロンパンとコーヒー、昼は緑茶とカレー、夜はビールと焼きそばといった感じ。カロリーは十分だが、食品の多様性が低い」
食品摂取に多様性がないとなぜ、認知機能を維持できないのか。4群に分けて、摂取した栄養素を比較した。
「多様性が高い人では、さまざまな栄養素を摂取していた。そういう人は健康への配慮もあることも関連していそうだ」
次に脳を磁気共鳴画像装置(MRI)で調べ、記憶に関連の深い海馬の大きさと食品の多様性との関連を分析した。
加齢で海馬は縮んでいくことが知られているが、食品の多様性が高い人ほど萎縮度合いが小さいことも分かったという。
大塚部長は「いくつかある日本の長期研究と合わせると、さまざまな食材を用いた栄養バランスがよい食事が日本人にとって認知症予防に一定の効果がありそうだ」と話している。