システム障害を知らせる、三菱UFJ銀行上野支店の張り紙=10日、東京都台東区
システム障害を知らせる、三菱UFJ銀行上野支店の張り紙=10日、東京都台東区

 銀行間の振り込みや送金のためのシステムが2日間にわたって停止した。多くの銀行が参加する公共性の高いネットワークで起きた障害だ。

 金融機関の信頼は、確実にお金をやりとりできるシステムに支えられている。その根幹が揺らいでいる。技術、システム運用、危機対応策などの問題点を多面的に洗い出し、再発を防ぐ必要がある。

 障害が起きた「全国銀行データ通信システム」には銀行、信用金庫、信用組合など全国の千以上の金融機関が接続している。1日の送金規模は12兆円を超えるという。3連休明けの10日、三菱UFJ銀行、りそな銀行など10金融機関で、ほかの銀行などへの送金ができなくなった。金融機関の利用者の中には必要な資金を取引先に送れなかったり、給与の振り込みが滞ったりする例が相次いだ。復旧までに48時間かかり、255万件の送金処理が遅れた。

 全銀システムは1973年にスタートした。資金決済の中核を担う送金網であり、稼働開始からの50年間、大きなトラブルは起きていなかった。

 障害の原因は、全銀システムと各金融機関を結ぶ「中継コンピューター」にあるという。2023年から29年にかけて金融機関ごとに順次更新する計画であり、その第1弾が三菱UFJ銀行などのグループだった。

 故障などに備え、銀行ごとに予備のコンピューターがあるが、正しく作動しなかった。中継コンピューターのソフトウエアに組み込まれている送金額の点検機能が、不具合を引き起こしたからだ。

 システムを運用する団体「全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)」が、更新作業に十分な時間を取るため、3連休中に実施したのは妥当だった。しかし初稼働が、送金の多い「五十日(ごとおび)」になることをどこまで考慮したのだろうか。

 障害発生後の対応も検証してもらいたい。更新前のシステムに戻して復旧を試みる案もあった。しかし、実際には送金額の点検機能を外してソフトを簡素化し、機能を修復する方法を選んだ。復旧のスピードを考えた場合、どちらを選ぶべきだったのか。

 多くのシステム障害を経験してきた金融界では、システム更新の準備や障害発生後の対応は頭取・社長を含む経営陣が細かく報告を受け、判断するルールが確立している。最も高度な企業統治の実践を求められるのがシステム更新なのだ。

 全銀ネットは一般社団法人であり、事実上、全国銀行協会(全銀協)の傘下にある。公益法人に特有の甘さはなかったか。直接影響を受けたのは金融機関だが、その先には多くの利用者がいる。全銀ネットや、システムを構築したNTTデータに顧客本位の意識が徹底していたかどうか、厳しく問いたい。

 銀行のシステムはいま過渡期にある。大型のコンピューターやサーバーを使った従来の方式に代わり、クラウドやパソコンで運用する仕組みが開発されている。新鋭システムによって高機能と機動的なサービス、低コストの実現を迫られる時代を迎えている。

 半世紀にわたって安定運用を続けてきた全銀システムがつまずいたことは残念でならない。金融庁や全銀協は調査を通じ、一つでも多くの教訓を引き出し、信頼回復につなげねばならない。