秋の臨時国会召集を与党に伝え、記者団の取材に応じる岸田文雄首相。内閣再改造後、初の国会論戦となる=9月29日夕、首相官邸
秋の臨時国会召集を与党に伝え、記者団の取材に応じる岸田文雄首相。内閣再改造後、初の国会論戦となる=9月29日夕、首相官邸

 第2次岸田再改造内閣として初めての論戦の舞台となる臨時国会が20日に始まる。

 庶民の生活を直撃する資源・物価高騰、加速する人口減少と少子高齢化、危機的な財政。ロシアによるウクライナ侵攻、パレスチナのイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘という二つの戦火を抱える国際情勢。国内外に難題が山積する中、形骸化が指摘されて久しい国会の再生が試される。言論の府が本来の役割を果たすには、まず岸田文雄首相や与党が姿勢を改めなければならない。

 先の通常国会では、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有やそれに伴う防衛費の大幅増に象徴される安全保障政策、原発政策などの大転換に踏み切りながら、論議を尽くしたとは言い難い。9月の内閣改造・党役員人事も新体制で何を推進しようとしているのかメッセージが希薄で、来年の総裁選再選をにらんだ政局的な思惑がにじみ、それが支持率の低迷につながっているのではないか。

 最優先課題となるのは、岸田首相が打ち出した新たな経済対策だろう。首相は物価高対策、持続的な賃上げにとどまらず、国内投資促進、人口減少対策、国民の安心・安全まで5本柱を掲げ、2023年度補正予算案を提出し成立させる方針だ。

 ただ、与党内からは「15兆円から20兆円」と規模ありきの発言も出ており、あれもこれも盛り込み、膨張した補正予算を編成すれば、財政規律はますます緩む。防衛費の大幅増、異次元の少子化対策も、メニューを並べるばかりで肝心の財源論議を先送りするのは無責任だ。政策の優先順位の明確化が欠かせない。

 忘れてはならないのは、国会議員自らの身をただす改革だ。歳費(給与)とは別に月額100万円支給される「調査研究広報滞在費」(旧文書通信交通滞在費)の透明性向上に向けた見直し論議をいつまで放置するのか。この国会で結論を出さなければならない。

 安倍晋三元首相が銃撃された事件をきっかけに浮上した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題は、岸田政権が教団の解散命令を東京地裁に請求した。だが、多額の献金による被害者の救済はこれからで、教団の財産が海外に移されないよう保全する法整備も急ぐ必要がある。

 教団との決別宣言で終わりではない。ここまで有効な対策を打てなかった政府の不作為、教団による政策決定への影響力行使の有無、安倍政権下の15年に認められた教団の名称変更など自民党政権とのかかわり―といった核心部分の解明は、国権の最高機関の出番だ。

 野党の力量も問われる。財源に裏打ちされた政策を対案として提示する。同時に、調査力と質問力を磨き、予算委員会だけでなく、全ての委員会をフル稼働させ、行政府へのチェック機能を発揮してもらいたい。

 与党内では、衆院解散・総選挙の可能性に触れる発言も相次いでいる。通常国会の終盤で岸田首相自身が解散風をあおったことは記憶に新しい。任期はまだ2年も残っている。これだけの難題に直面しながら、権力をもてあそぶかのような振る舞いは慎むべきだ。

 野党の質問から逃げずに真摯(しんし)に向き合い、その主張も取り入れながら幅広い合意を取り付ける努力が真の「聞く力」である。腰を据えた実りある論戦を繰り広げてほしい。