交通事故死者数の推移(状態別)
交通事故死者数の推移(状態別)

 警察庁は11日までに、道交法に従って交通マナーをまとめた「交通の方法に関する教則」を改正し、信号機がない場所での横断について「手を上げるなどして運転者に横断の意思を明確に伝える」ことを歩行者の心得として盛り込んだ。歩行者に自らの安全確保を促し、死亡事故の中で最も多い歩行中の事故を減らすのが狙い。 

 

 「手上げ横断」は1978年に教則から削除されたが、同庁は教則を改正し、43年ぶりに復活させた。政府も交通安全基本計画で歩行者の安全確保を「重視すべき視点」としており、一丸となって事故防止に取り組む。

 警察庁の担当者は「きちんとアピールして車を止まらせることで、より安全に渡ることができる」としている。

 2020年の交通事故死者は2839人。過去最少を更新し、1970年に1万6765人が亡くなり「交通戦争」と呼ばれたピーク時からは6分の1に減少した。だが日本は欧米に比べ事故死者に占める歩行者の割合が高い。20年中も状態別では最多で、全体の35・3%に当たる1002人が歩行中の死者だった。

 また、警察庁は小学校入学前の幼児の交通事故を分析。20年までの5年間に事故で死亡または重傷を負ったのは1428人で、うち64・1%の915人が歩行中だった。

 車による「横断歩行者妨害」の摘発も近年、年間20万件を超え歩行者優先からはほど遠い状況。事故対策を進める上で、歩行者の安全確保は最優先課題となっている。

 同庁によると、72年に教則ができた際は横断の仕方について「手を上げて合図をし、車が止まってから渡る」などと定められた。78年の全面改正で、理由は不明だが手上げ横断は削除され「車が近づいているときは、通り過ぎるまで待つ」に変更された。

 手上げ横断は以来、教則から消えたが、警察庁は4月、政府が3月に策定した交通安全基本計画に「歩行者が自ら安全を守るための行動を促す教育を推進する」と記載したのも踏まえ教則を改正、再び追加した。

 同庁は、交通安全教育の基準を示した「交通安全教育指針」にも手上げ横断を追加して改正。都道府県警は今後、指針を参考に交通安全教室で児童らを指導する。 

 

常識フレーズ 削除理由は謎

 

 「手を上げて、横断歩道を渡りましょう」。誰もが耳にしたことのある常識のようなフレーズだが、歩行者と運転者の交通ルールを定めた「交通の方法に関する教則」からは、43年前に削除されていた。「手上げ横断」はなぜ、消えたのか―。

 教則ができたのは「交通戦争」と呼ばれたころの1972年。信号のない場所の渡り方として手上げ横断は盛り込まれていたが、78年の全面改正でその記述は消え、「車が近づいているときは通り過ぎるのを待つ」などの規定が入った。

 手上げ横断は4月の改正で復活したが、京都府警交通部の幹部は教則から消えていたこと自体に「驚いた」という。「『手を上げて』が抜けたという意識を持ってない。どうして削除されたのか…」

 手を上げると、車は必ず止まってくれると子どもたちが思い込みかえって危険、タクシーが止まってしまう…。さまざまな推測があるが、警察庁の担当者も「資料が残っておらず、理由は分からない」と首をひねる。

 改正で教則から削除された78年は、第1次と第2次交通戦争の間の、年間の事故死者が1万人を割った谷間の時期だ。

 一方で、手上げ横断は教則から消えても、社会には根強く浸透していたとみられる。大阪府警のある幹部は「推測だが、手上げ横断は警察ではなく学校現場で先生が口にしていたから、今でも広く周知しているのではないか」と指摘した。