参院選の「合区選挙区」という同じ境遇にある山陰両県の有権者も、あまりに低い数値に驚いたのではないか。22日に投開票された参院徳島・高知選挙区の補欠選挙の投票率である。

 全体の32・16%は、2019年参院選の42・39%を10ポイント以上下回り過去最低を更新。県別では高知が40・75%だったのに対し、徳島は23・92%とさらに低迷し、前回の22年参院選から21・8ポイントもダウンした。

 もともと補選は3年ごとに行われる本選挙よりも関心が集まりにくいとされ、投票率も低くなりがちではあるが、信じ難い落ち込みだ。政治離れの加速を象徴した結果と言えよう。

 結果を受け、岸田文雄首相が「地域の政治情勢、合区の影響などを分析して今後の対応に万全を期したい」と語った通り、要因の一つは合区だろう。

 参院の「1票の格差是正」を目的に隣接県を一つの選挙区に統合する合区が「鳥取・島根」と「徳島・高知」の2選挙区で導入されたのが16年のこと。

 鳥取・島根選挙区は東西約320キロと細長く、面積は約1万200平方キロにも及ぶ。その8割超を占める中山間地域や離島の町村では候補者との「距離」がさらに遠くなった。少子高齢化や担い手不足に苦しむ地域住民の切実な声は、国政に届きづらくなっている。

 それに比例して政治への期待もしぼんでいるようだ。16年は59・52%だった鳥取・島根選挙区の投票率は、19年は52・20%まで低下。22年は52・99%とやや持ち直したものの、50%割れは目前だ。鳥取だけ見れば19、22年とも50%を下回った。

 今回の徳島・高知の補選は、自民党議員が暴力行為で辞職したことに伴い実施された。与野党一騎打ちの構図になったが、2候補とも高知を地盤にしていた。徳島での関心が低いのは当然なのかもしれない。

 とはいえ、記録的な低投票率を合区のせいだけで片付けるわけにはいかない。主因は岸田政権に対する不信感ではないか。

 象徴的なのがエネルギー政策の転換である。ウクライナ危機によるエネルギー資源の調達環境の悪化を背景に、次世代型原発への建て替えや運転期間60年超への延長を盛り込んだ、脱炭素化に向けた基本方針を閣議決定。11年の東京電力福島第1原発事故以降、原発の新増設や建て替えは「想定しない」としてきた姿勢から一転「原発回帰」へと大きくかじを切った。

 問題は進め方だ。首相は22年7月の参院選で全くそぶりを見せず、脱炭素社会の実現を議論する翌月の有識者会議で突然表明。国会で議論する前に政府与党で決めてしまった。これでは有権者が「選挙に行っても意味がない」と思っても仕方ない。

 今回の補選では投開票日の2日前、首相が所得税減税に言及した。有権者の歓心を買う思惑があっただろうが、結果は不発に。政権浮揚の手だてとして経済対策が使われたと不信感を抱いた有権者も多かっただろう。

 補選翌日、東京都内で政治資金パーティーを開いた自民党の石破茂元幹事長(衆院鳥取1区)は低投票率に触れ「投票を義務制にすべきだ」と持論を述べたという。確かに一理あるが、政治離れを解消できなければ白票が増えるばかりだ。それは合区選挙区に限った話ではない。