アンダーソン・ブラフォード・ウェイクマン・ハウのアルバム「閃光」(左)とイエスのアルバム「ラダー」
アンダーソン・ブラフォード・ウェイクマン・ハウのアルバム「閃光」(左)とイエスのアルバム「ラダー」

 プログレッシブロックバンド、イエスはメンバーの入れ替わりが激しく、分裂した時期もある。分裂期に「イエス」を名乗れなかった方のバンド、アンダーソン・ブラフォード・ウェイクマン・ハウ(ABWH)のアルバム「閃光」(1989年)が好きだ。ボーカル、ジョン・アンダーソンの天空に昇るような伸びやかな歌声で始まる3曲目「ブラザー・オブ・マイン」が特にいい。

アンダーソン・ブラフォード・ウェイクマン・ハウのアルバム「閃光」

 1曲目「テーマ」はリック・ウェイクマンのキーボードがとにかく美しい。胎動を感じさせ、幕開けにふさわしい曲。2曲目「フィスト・オブ・ファイア」で変化を付け、3曲目に続く流れもいい。8曲目「オーダー・オブ・ザ・ユニバース」もよく、全体的に完成度の高いアルバムだ。英国のイラストレーター、ロジャー・ディーンが描いたジャケットの幻想的な風景画も雰囲気を高めている。

 代表作のアルバム「こわれもの」(71年)「危機」(72年)を手がけたイエス黄金期のメンバー5人中4人がABWHを結成した。イエスの顔はアンダーソンであり、ABWHの音楽は紛れもなく「イエスの音楽」だと思う。黄金期と比べてもアンダーソンの歌がさえているのに、それほど評価されていないのが不思議だ。

イエスのアルバム「ラダー」

 イエス名義のアルバムから一番好きなものを挙げるなら「ラダー」(99年)。テイストは「閃光」に近い。ジャズ・フュージョン風味の強い異色作「リレイヤー」(74年)も好きだ。

 イエスはプログレ四大バンドの一つとされるが、最近まで、ちゃんと聴いたことがなかった。1990年代初めの大学時代、友人にイエス入門に最適だと「こわれもの」「危機」を勧められながら、直感で手に取ったのが「閃光」だった。当時、毎晩聴くほど気に入ったのに、なぜイエスに入り込まなかったのだろう。

 アンダーソンのソロアルバム「1000ハンズ」(2019年)に大好きなジャズピアノ奏者チック・コリアが参加していると知って買い、アンダーソンの歌声を聴いたら懐かしくなり、イエスのアルバムを聴きあさったという次第だ。

 1970年代にチック率いるフュージョンバンド、リターン・トゥ・フォーエバー(RTF)とイエスが影響を与え合っていたことも知った。そのつもりでRTFのアルバム「浪漫の騎士」を聴き直すと、確かにプログレっぽさも感じる。イエスの「リレイヤー」のジャズ・フージョン色も納得した。ジャズとロックが混沌としていた、この時代の音楽に興味が増した。
  (志)