一分の隙もない緊迫感あふれる演奏とは、このことだ。フュージョンのギター奏者アル・ディ・メオラの代表曲「レース・ウィズ・デビル・オン・スパニッシュ・ハイウェイ」(1977年のアルバム「エレガント・ジプシー」に収録)を聴いてみるといい。緊張と弛緩のバランスが巧みで、2分過ぎからの高速と中速のギターリフ、一瞬の間の繰り返しが圧巻。タイトル通り高速道路上のレースさながらのスリルが漂う。
屈指の速弾き奏者で、ロックの世界にも波紋を広げた。メタルバンドのライオットはこの曲をカバーして敬意を表した。メタル界最速のギター奏者イングヴェイ・マルムスティーンはよく比べられ、対抗心をあらわにしていたようだ。

ジャズピアノ奏者チック・コリアと同様に米国人ながらスペイン音楽に引かれて曲に取り入れた。フラメンコギターの第一人者パコ・デ・ルシアとの共演はチックより一足早かった。パコをジャズ・フュージョン愛好者にも知らしめるのに一役買っており、パコの大ファンとして、うれしい。
「エレガント・ジプシー」に収録された「地中海の舞踏」はパコと共演するために作った曲。これは、パコの曲「広い河」とメドレーにした「地中海の舞踏/広い河」のライブ演奏を聴いてほしい。2人の入れ込みようが格段に違う。

「地中海の舞踏」の高速フレーズ合奏で始まり「広い河」に変化し「地中海の舞踏」に戻って激しい掛け合いで盛り上がり、高速フレーズ合奏で終わる。11分半、ずっと傾聴してしまう名演。ギターデュオ演奏の最高峰だと思う。フュージョンギター奏者ジョン・マクラフリンを加えた3人のライブ盤「フライデイ・ナイト・イン・サンフランシスコ」(81年)にある。
ディ・メオラはチック率いるフュージョンバンド、リターン・トゥ・フォーエバーに入って名を上げた。
チックの一番の熱演は、まず、1981年のライブ・アンダー・ザ・スカイでパコと共演した「イエロー・ニンバス」。そして、リターン・トゥ・フォーエバーの「浪漫の騎士」(76年の同名アルバムに収録)だと思うが、この曲でチックの演奏を引き立てているのがディ・メオラだ。
天才ギター奏者2人それぞれが、チックから最高のパフォーマンスを引き出しているのが興味深い。パコとチックが世を去り、もはや、かなわないけども、ディ・メオラを含めた3人の共演を聴いてみたかった。
(志)