パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルが、戦闘休止に合意、ハマスが人質の解放を始める見通しとなった。戦闘開始から1カ月半の遅すぎる合意ではあるが、カタールなどの仲介交渉によって人命の確保に道が開かれたことを評価したい。
これまでに明らかになった合意内容によれば、ハマスが人質の女性や子ども約50人を解放するのと引き換えに、イスラエルがガザでの戦闘を4日間休止する。この期間中に人道支援物資のガザ搬入も検討中だ。
人質解放の展開によっては戦闘休止期間が延長される可能性もあり、双方が現実を冷静に分析する機会となるだろう。交渉の機運を本格的な停戦へとつなげるべきだ。
これ以上の戦闘継続や激化は、イスラエルと、ガザのパレスチナ人双方の存在すら危うくすることに気付いてほしい。イスラエルの国際的孤立が不可逆的なレベルまで進み、戦場となったガザは人間が生活を維持できなくなる場所になる恐れがあるからだ。
イスラエルに対する国際的な非難は、多数の民間人を巻き添えにしていることで、建国以来最も厳しいレベルに達している。ナチス・ドイツによる「ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)」という人類史上まれにみる悲劇の反省から、欧米を中心とする国際社会は、ユダヤ人が安住の地を求めたイスラエルの建国と、国家安全保障への執着に寛容だった。
特に国内にユダヤ系市民を多数抱える米国は、政治的事情もあって最大の後ろ盾となった。時には過剰に強硬な対パレスチナ政策を黙認し、莫大(ばくだい)な軍事支援を長年継続、国連でのイスラエル非難決議案に拒否権を行使してきた。
今、イスラエルに対するこうした寛容と忍耐は限界に近づいている。ガザで1万4千人を超える死者が出ても学校や病院を無差別に攻撃するイスラエルは、安住の地を決死の覚悟で守る小国家ではなく、パレスチナ人を容赦なく抑圧する強者の傲慢(ごうまん)さを世界に印象づけている。
一方でハマスが10月7日の奇襲で、1200人ものイスラエルの市民らを殺害したことを忘れてはなるまい。パレスチナ問題が国際社会で置き去りにされる現実に抵抗しようとしたにせよ、この蛮行は絶対に許されない。
ハマスが標的としたキブツ(集団農場)は一般的にリベラルな気風が強く、取材をするとパレスチナ人の苦境に同情的なイスラエル人が確かに存在することを実感する。パレスチナ人の土地に違法な入植を広げる確信犯的なユダヤ人とは一線を画す人々の良心を、命とともに葬った愚かさをハマスは思い知るべきだ。
テロを実行したハマス軍事部門の壊滅は避けられまい。イスラエルが主張するように、ガザが再びテロ部隊の発進拠点にならないための保障措置も必要だ。
そのためにはハマス指導部が、軍事部門存続を断念してでも一般パレスチナ人の命と生活の優先を選択する必要がある。
米国と協調しハマスとイスラエルの合意到達に尽力したカタールの功績は大きい。ハマスからは女性や子ども以外の人質も解放に向けた条件を引き出し、戦闘休止の時間が少しでも増えるよう環境づくりに独自の外交力発揮を期待したい。