北朝鮮が軍事偵察衛星を打ち上げ、地球周回軌道に進入させ、成功したと発表した。北朝鮮は早期に複数の偵察衛星を追加すると明言しており、実現すれば脅威のレベルが格段に上がることとなる。日米韓は連携を強化すると同時に、北朝鮮に影響力のある中国に対し、緊張緩和に向けた行動をとるよう求めるべきだ。
打ち上げは弾道ミサイル技術を使ったあらゆる発射を北朝鮮に禁じた、国連安全保障理事会決議に明らかに違反する。さらに、北朝鮮が日本の海上保安庁に通報していた「人工衛星」の打ち上げ予告期間を前倒しした形となり、自衛権を主張しながらも、周辺国の安全に対しては無責任な姿勢を如実に示した。
北朝鮮は2021年1月、朝鮮労働党の党大会で「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」を採択し、核・ミサイルの開発を推し進めてきた。そこには軍事偵察衛星による「偵察情報収集能力の確保」も明記されており、重点目標の一つとなっている。金正恩党総書記がたびたび開発現場を訪れていることからも、戦略的価値の高さがうかがえる。
今回の打ち上げで見過ごせない問題は、ロシアが技術支援を行った可能性があることだ。北朝鮮は5月と8月にも打ち上げを試みているが、エンジンの不具合などで失敗していた。
こうした事態を打開する契機となったとみられるのが、9月のロシア極東を訪問した金氏とプーチン大統領の首脳会談だった。
ロ朝は軍事分野を含んだ戦略的協力強化で一致しており、ロシアがウクライナ戦争の長期化で不足している弾薬を北朝鮮から受け取る見返りに、偵察衛星の打ち上げや運用に必要な技術を供与するとの懸念が浮上した。韓国の申源湜国防相は「ロシアの支援でエンジンの問題をほぼ解消したと判断している」と述べている。
北朝鮮との武器や軍事技術の取引は国連安保理決議によって禁止されており、常任理事国であるロシアが違反を行っているのであれば、国際社会への挑戦とも言える行為だ。
ロシアは北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射に安保理で追加制裁を科そうとする提案に拒否権を行使し、北朝鮮もロシアのウクライナ侵攻を支持してきた。ロ朝の軍事協力が進み、北朝鮮がロシアという心強い後ろ盾を得て核・ミサイル開発を進めていく構図が固定化すれば、安保理の存在意義は薄れ、国際秩序は根底から揺らぐことになる。
ロシアと北朝鮮に共通しているのは、軍事を最優先にして人々の生活を圧迫し、結果として国の発展を妨げているという点だ。
ウクライナ侵攻で国際的に孤立するロシアと、独裁体制を敷く北朝鮮の接近には、日米韓の連携に影響を与えたいとの思惑が透けて見える。来年は米国は大統領選、韓国は総選挙が控えており、北朝鮮が軍事・外交面での揺さぶりを強めてくることも考えられる。
ここで重要になってくるのが中国の存在だ。中国は米国との1年ぶりの首脳会談で、国防当局や軍の高官による対話再開に合意した。中国が北朝鮮の核・ミサイル開発を黙認していては、地域の安定は実現しない。日米韓が協調して中国を巻き込み、ロ朝への働きかけを強めていくことが大切だ。