立法府の一員ながら、自らがつくった法律を順守しようという自覚を感じない。これでは国民の政治不信は募るばかりだ。猛省してもらいたい。
自民党の5派閥が政治資金パーティーの収入に関して、2018~21年分の政治資金収支報告書に計約4千万円を過少記載していたとして、政治資金規正法違反容疑で告発された。東京地検特捜部が担当者らを任意で事情聴取しているという。
政治資金規正法は、20万円超のパーティー券の購入者・団体を収支報告書に記載するよう定めているが、不記載が多数見つかった。各派は報告書を訂正したものの、横並びで同じ手口が表面化したところを見ると、法律の抜け道が広く共有され、常態化していたと批判されても仕方あるまい。
昨年12月には薗浦健太郎元衆院議員(自民党離党)が政治資金パーティーの収入を記載していなかった問題で議員辞職に追い込まれ、略式命令を受けた。洋上風力発電事業に絡む秋本真利衆院議員(同)の汚職事件の摘発など政治資金に関する疑惑は後を絶たず、この国のまつりごとでは「政治とカネ」は宿痾(しゅくあ)と呼んでもいいのかもしれない。
言うまでもなく、政治資金の処理で最も肝心なのは、透明性の確保だ。つまり収入と支出を明確にして「国民の不断の監視」(政治資金規正法)にさらすことである。今回の過少記載について岸田文雄首相らは、収入の「総額」は変わっておらず「裏金」に当たらないとするが、収入の記載をないがしろにしたのは明らかに法律の目的を逸脱する行為ではないか。
ところが、国会で野党から追及されても、派閥の会長を務める首相や、閣僚席に座る事務総長・事務総長経験者の答弁は、国民が抱く不信感への危機意識が希薄だった。「政府の立場として答えを差し控える」「誤りがあった場合は政治団体の責任で訂正されるべきだ」と詳細な経緯の説明を拒むのでは、国民が納得するはずもない。
間違いを指摘されても事務的なミスを理由に訂正すれば済む、と安直に考えているのだろう。こうした政治資金制度を規定する法律を軽視する姿勢は、嘆かわしい事態だ。
厳しい世論を懸念したのか、岸田首相は慌てて各派閥が速やかに説明するよう茂木敏充幹事長に指示、「国民の信頼という観点から重大な危機感を持たなければならない」と表明した。過去の政務三役らの更迭の遅れと同様に、ここでも判断の甘さが露呈したと言える。
現在の岸田内閣では、パーティー券の処理を巡り、加藤鮎子こども政策担当相や自見英子万博相の政治団体に対する告発状が提出されている。それぞれ説明責任をきっちりと果たすことが必要だ。
折しも22年分の政治資金収支報告書(中央分)が公表された。企業・団体献金が伸び悩む中で、新型コロナウイルス禍が明けたこともあり、政治資金パーティーの収入は3割超増え82億円に上った。政治家や派閥などのカネ集めの大きな手段となっているからこそ、法律に沿った正確な処理が欠かせない。
政治資金規正法は基本理念に「政治資金の収受に当たっては、いやしくも国民の疑惑を招くことのないように、この法律に基づいて公明正大に行わなければならない」と掲げる。政治資金の透明化へ、政党や議員は襟を正さなければならない。