待望の復活を果たした山陰唯一の国際定期便は、このまま順調に翼を広げ続けるだろうか。
米子空港(境港市佐斐神町)と韓国・仁川(インチョン)国際空港を結ぶ、格安航空会社エアソウルの米子-ソウル便の運航が10月25日に再開され、1カ月が過ぎた。日韓関係の悪化や新型コロナウイルス禍を乗り越え、2019年10月の運休から4年ぶりに再開した路線の滑り出しは好調だ。
現在は週3往復の運航。鳥取県によると、10月は1170席の提供座席数に対して利用客は1048人で、このうち688人が韓国人客。搭乗率は89・6%と高水準を達成した。
再開初日の仁川からの第1便は満席に。同乗したエアソウルの趙(チョ)鎭滿(ジンマン)代表理事は「鳥取県は観光資源がとても豊かで旅行客の関心が高い」と述べ、まずは運休前の最大週6便運航の復活へ意欲を見せた。ウォン高・円安で韓国から日本へ旅行しやすい環境が整っており、11月以降も韓国人客を中心に予約は順調に推移しているようだ。
好調は米子空港に限らない。政府観光局が今月15日に発表した推計によると、10月の訪日客(インバウンド)は251万6500人で、19年同月比0・8%増となり、コロナ禍前だった19年水準を月別で初めて超えた。円安に加え、航空路線の運航再開が寄与した。国別で見ると、韓国からの訪日客が63万1100人で、10月としては過去最高を記録。19年同月比3・2倍の実績で、観光需要がコロナ禍前に戻った証しと言えそうだ。
観光局は増加の要因に仁川-米子間に加え、仁川と岡山、鹿児島間の2ルートの運航再開も挙げた。見方を変えれば、訪日客を奪い合う国内のライバル空港も復活を果たし、今後厳しい競争にさらされることになる。
国土交通省観光庁の最新データによると、8月の外国人延べ宿泊者数は1010万人で、19年同月比6・4%増となった。とはいえ、都道府県別で増えているのは東京都や大阪府、福岡県など大都市圏が中心だ。鳥取県は27・2%減の9330人。島根県は11・5%減の5950人で、福井県の5160人に次ぎ2番目に少なかった。
山陰両県にとって宿泊者数増の起爆剤になるのが米子-ソウル便だ。運休前の2泊3日の団体ツアーは、鳥取砂丘(鳥取市)や白壁土蔵群(倉吉市)、水木しげる記念館(境港市)など鳥取県内の名所を周遊し、島根県東部の松江城や由志園(共に松江市)、足立美術館(安来市)を観光するのが定番だった。便数拡大に向けては、新たな魅力の掘り起こしが欠かせない。
元徴用工訴訟問題を機に戦後最悪と言われるまで冷え込んだ日韓関係は、対日関係改善に強い意欲を示す尹錫悦(ユンソンニョル)氏が昨年5月に大統領に就任して以降、急速に修復が進んだ。とはいえ、政権基盤が弱い上、韓国内では尹氏の対日姿勢に対し、野党などが「屈辱外交」と批判を強めており、良好な関係が長期的に続く保証はない。
山陰両県の観光関係者がやるべきなのは地域の魅力を磨き、たとえ関係が悪化しても、旅行先として選んでもらえるだけの「地力」を付けることだろう。
加えて安定した搭乗率を維持するためにも、訪韓する日本人客(アウトバウンド)の利用促進も忘れてはならない。