全国で唯一、新型コロナウイルス感染者の死亡例がなかった島根県内で、初めて死者が出たことが16日、明らかになった。県民は一様に重く受け止めて警戒感を強め、感染予防に徹する意を新たにした。

 この日、ワクチン接種を予約した出雲市小山町の自営業、今岡憲樹さん(80)は「島根は死者が出ないと思っていた」とショックを隠さなかった。

 15日現在で県内の累計感染者数が551人と、鳥取県(466人)に次いで少ないのは、県人口の少なさによるところが大きい。

 鳥取では感染拡大第3波さなかの1月8日に初の死者が判明し、11日にもう1人が犠牲になったが、島根は死者ゼロを守っていた。

 浜田市三隅町黒沢、無職栗栖まゆみさん(64)は「人が少ない地域に住むが、安全と言い切れないことが分かった。(自分自身)警戒心が低かった」と気を引き締めた。

 島根の死者ゼロは、重症化リスクが高い高齢者の福祉施設でクラスター(感染者集団)が発生していないことも大きかった。

 「長引くコロナ禍で、自身と職員に緩みがないか、見直す必要がある」と話すのは、松江市内の高齢者福祉施設で施設長を務める石原泰仁さん(35)=松江市八雲町熊野。利用者と職員の多くがワクチン接種済みだが、感染の可能性がゼロとは言い切れない。変異株が県内に及ぶ懸念もあり「重症化すれば生命の危機にひんする高齢者を支えている自覚を、あらためて強く持ちたい」と話した。

 益田市医師会の松本祐二会長は、これまでの死者ゼロについて「介護施設や病院でのクラスターがなく、リスクが高い基礎疾患のある人に感染しなかったからだろう」と分析。感染力や重症化リスクの高い変異株の感染拡大を踏まえ、マスク着用や「3密」回避、手指消毒といった基本の感染予防策の徹底を求めた。

 コロナ封じの切り札と期待されるワクチン接種は今春、始まったばかり。国は「7月末に高齢者への接種を完了」と旗を振り、山陰両県でも自治体や医療関係者の奮闘が続くが、大規模自治体の一部は目標達成が困難な状況だ。

 その後には64歳以下の接種が控えており、浜田市弥栄町小坂の農家、小松原峰雄さん(75)は「接種が早く進んでほしい」と願った。 (取材班)