白磁にかける思いを述べる前田昭博さん(右端)=松江市袖師町、島根県立美術館
白磁にかける思いを述べる前田昭博さん(右端)=松江市袖師町、島根県立美術館

 工芸界最大規模の公募展「第70回日本伝統工芸展」(島根県、県立美術館、山陰中央新報社など主催)が開かれている松江市袖師町の島根県立美術館で10日、人間国宝(重要無形文化財「白磁」保持者)の陶芸家前田昭博さん(69)=鳥取市河原町=が「白磁と私」と題して講演し、苦労を重ねながら歩んだ陶芸人生を語った。

 前田さんは大阪芸術大を卒業後に地元へ戻り、白磁の制作を志した。周辺に制作者がいない地域で独自の作風を生みだし、2013年に人間国宝に選ばれた。

 講演では、3カ月分の作品を焼いた際、全てにひびが入ったエピソードも紹介。「作る気力がなくなったが、焼き物が好きで作りたい自分もいた。3カ月は長いが、一生と比べると小さな点ほどの大きさかもしれない。二度と同じ失敗だけはしないように言い聞かせた」と振り返った。

 前田さんの作品は、山陰に降る雪を意識したぬくもりのある白色が特徴。絵柄がなく、シンプルな作品には「装飾的な要素がたくさん入る以上に、魅力がある」と述べた。

 日本伝統工芸展は前田さんの白瓷面取壺(はくじめんとりつぼ)など270点を展示し、25日まで開かれている。16、17、23、24の各日は午後2時から出品作家による展示作品の解説がある。会期中無休。(曽田元気)