1996年にサンフランシスコで10万人を集めた「チベタン・フリーダム・コンサート」の模様を収めた3枚組のライブ盤CD。そこで初めて米国バンド・ペイヴメントを知った。調子っぱずれのボーカル、酩酊(めいてい)したようなステージで「これは大観衆を前にして、あがったんだな」と勝手に解釈した。その後、オリジナルアルバムを聴くと、ライブと全く同じ歌声、演奏で驚いた。こういうバンドだったのだ。
録音技術が進歩する中、過剰に演出された作品群に反発する「ローファイ」と呼ばれるジャンルのアーティストだった。商業主義に中指を立て、ロック的なカタルシスという様式美を否定する哲学ともいえた。誰もが完全無欠を目指してステージに立つわけではない。あらためて収録曲「タイプ・スローリー」を聴くと「諦観(ていかん)」「超然さ」を感じさせる自然体の演奏の中から、メロディーの繊細さが立ち上る。当初の自分の解釈を恥じた。
1枚目の「スランティッド・アンド・エンチャンティッド」(92年)はノイズにまみれたデモテープのような音質で「ローファイの金字塔」と評される。枚数を重ねるごとに洗練され、4枚目の「ブライトン・ザ・コーナーズ」(97年)あたりで円熟味が増す。奇妙だが音楽の奥深さを感じさせるバンドだ。
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