メタルの速弾きギター奏者イングヴェイ・マルムスティーンを聴くなら、歌のないインストゥルメンタル曲がお勧めだ。例えば「トリロジー・スーツ・オーパス5」(1986年のアルバム「トリロジー」に収録)。流れるような高速アルペジオの連発で始まり、キーボードの速弾きとの掛け合いも見せる。中盤以降は中だるみ感があるものの全力疾走する序盤が圧巻で、これを聴いて即刻、イングヴェイが気に入った。
スウェーデン出身。子どもの頃、甘やかされてわがままに育ち、学校に行かずギターを弾いてばかりいたら上達したらしい。「俺以外のやつらはみんなカス」と言い放ち、他人の悪口が多く、最も性格の悪いギター奏者とも言われる。ギターだけ目立つインスト曲が割とあり、それだけでベスト盤が作れるほど。ソロデビューアルバム「ライジング・フォース」(84年)は8曲中6曲がインストだ。コアなファンである弟に聞くと、この破天荒な生き様も魅力なのだという。
クラシックを取り込んだ曲作りも持ち味。「ライジング・フォース」収録の代表曲「ファー・ビヨンド・ザ・サン」のイントロはベートーベンの交響曲第5番「運命」を思わせる。
曲想はやや単調だが「速弾き」かつ「ロックとクラシックの融合」という特徴がよく表れていて、好きな曲が「バロック・アンド・ロール」(2002年のアルバム「アタック!」に収録)。途中、往年の人気ゲームソフト「ドラゴンクエスト1」のラダトーム城のBGMにそっくりのフレーズが流れ、懐かしくなる。バッハの曲らしい。ドラクエシリーズのBGMはバロック音楽だと聞くが、こういうことかと納得した。
ちなみに、同じアルバム収録の「エア」はバッハの「G線上のアリア」のカバー。速弾きは全くない。
豊かな曲想は、速弾きを強調せず適度に緩急を付けた曲で見せる。例えば異色作「ブルー」(1999年のアルバム「アルケミー」に収録)。イングヴェイ流のブルースで、情感たっぷりだ。速弾きを交え、ギターを泣かせまくる。これが、かっこいい。同じアルバム収録の「アサイラム2 スカイ・ユーフォリア」もなかなか。アコースティックギターで、もの悲しく美しい音色を奏でる。
つくづく思う。インスト曲が中心のジャズ・フュージョンの世界に来れば面白いのに、と。「ベースが出しゃばっている」と嫌っているらしいが、来ないにしても共演したら、新たな境地が開けるかもしれない。
(志)













