アルバム「月に吠える」
アルバム「月に吠える」

 メタルの帝王オジー・オズボーンの持ち味が存分に発揮されているのは、怪奇趣味を押し出したソロ活動初期、1980年代の作品だ。とりわけお気に入りの曲は「月に吠(ほ)える」(1983年の同名アルバムに収録)。タイトル通りに、アオーッと狼(おおかみ)のような遠ぼえが入る演出に、ハッハッハッハという笑い声も相まって不気味さを醸し出す。

 オジーのハイトーンボイスはもちろん、2代目ギター奏者ジェイク・E・リーのシャープな演奏が冒頭から全開で、のこぎりを引くようなリフがいい。

 同じアルバムの曲「センター・オブ・イターニティ」もおどろおどろしさ十分。教会の鐘とコーラス、パイプオルガンで荘厳に始まっておきながら突然、ギターが入って激しい曲調に変わる仕掛けが面白い。

アルバム「ブリザード・オブ・オズ」

 トリッキーさは名曲「クレイジー・トレイン」(80年のアルバム「ブリザード・オブ・オズ」に収録)にもみられる。叫び声と笑い声、ホラーっぽい効果音、初代ギター奏者ランディ・ローズのジャジャジャラジャラジャラ…という有名なリフでおどろおどろしく始まっておきながら、爽やかな曲調に一変するのだ。

 かつて在籍したバンド、ブラック・サバスの曲「アイアンマン」(70年のアルバム「パラノイド」に収録)にもささやかな演出がある。冒頭の「ア~イ・アム・アイアンマ~ン」という機械みたいな声は、扇風機を使って声にエフェクトをかけたという。オジーのそんな遊び心が好きだ。

 ソロ活動初期、狼男に仮装するなどアルバムジャケットでのなりきりや、ライブ中に客が投げ込んだコウモリを食いちぎるなどの奇行は、プロレスに似たショーマンシップを感じる。例えるなら、かみつき攻撃が得意で、ヤスリで歯を研ぐ演出で知られる銀髪鬼フレッド・ブラッシーだ。

 ブラッシーは残虐な試合をテレビで見たお年寄りがショック死したと聞き、ひそかに心を痛めたらしい。オジーも、作品にあおられて自殺者が出たとしてバッシングされ、悩んだらしい。それでくたびれたのか、90年代以降は怪奇色が薄れ、聴かなくなった。

 「間違えて2枚買った」と以前、弟がくれたオジーのアルバム「オーディナリー・マン」(2020年)が最近、自宅で発掘され、封を開けた。エルトン・ジョンと共演したタイトル曲は美しいバラードで「普通の男で終わりたくない」という歌詞。異名の「プリンス・オブ・ダークネス」を演じてきたオジーの葛藤を想像させ、切なくなった。
 (志)