自民党派閥の政治資金パーティー裏金疑惑で岸田政権が揺らぐ中、石破茂元幹事長(衆院鳥取1区)の存在感が増している。党内からの批判を意に介さず、演説やテレビで連日、党の改革を訴え、孤軍奮闘で物言う姿勢を貫く。党が危機的状況に陥れば陥るほど国民人気を背景に「ポスト岸田」に浮上する可能性があり、党内からは「最後は『石破カード』が残っている」との声もささやかれる。(東京支社・原田准吏、鳥取総局報道部・岸本久瑠人)

「よっ、総理」-。20日夕、横浜市内の駅前に石破氏が姿を見せると、聴衆から掛け声が飛んだ。
菅義偉前首相に近いグループ(約25人)の衆院議員の応援演説に駆け付け、裏金疑惑を念頭に「自民党はもう一回出直さないといけない」と訴えると、約300人の聴衆から一斉に拍手が起きた。
岸田政権の支持率低迷とともに露出が増え、各種世論調査で「次期総裁候補」のトップに立つ。演説を聴いた男性(73)は「岸田首相には代わってもらいたい。今こそ石破さんに党を立て直してほしい」と期待した。
▼冷ややかな空気
一方、踏み込んだ発言をするほど党内には冷ややかな空気が流れる。
11日に出演したテレビ番組で岸田文雄首相について「(来年度)予算が通ったら辞めるというのは『あり』だ」と言及。退陣を迫ったかのような発言として波紋を呼んだ。
2018年の党総裁選で支援した茂木派の参院議員は「表ではなく水面下で(議員一人一人と会って)理解を広げるなら分かる。またかという感じだ」と嫌悪感を示す。13日に国会内で開いた石破グループ(約10人)の定例会合でも身内から「発言は切り取られるので気をつけた方がいい」といさめる声が出た。
ただ、石破氏は意に介さない。19日の山陰中央新報社のインタビューに「何か言ったら『後ろから鉄砲を撃つ』などと言論を封殺してきたことが今日の事態を招いたのではないか」と語気を強めた。
派閥自体に批判の矛先が向く中、党内での支持拡大について「言うべきことを言ってそれで人がついてくればそれで良し。ついてこなければやむを得ない」と吹っ切れた様子で語った。
党総務会では複数回、新たな政治改革本部の設置などを茂木敏充幹事長ら党執行部に迫った。執行部から反応がない中で「党の方針を国民に明らかにするべきだ」と訴え続ける。
▼「泥船でも出る」
表向きには「何も言わない」と語る総裁選への意欲は強い。
「自分に場面が回ってくれば泥船でも出る」。裏金疑惑が表面化する前の11月上旬、約30人が集まった倉吉市内での会合で支援者の1人に伝えた。来年9月の総裁選に向け、自民鳥取県連副会長の上杉栄一鳥取市議は「最後のチャンスになるかもしれない」と話す。
過去、自民は第1次安倍政権が衆参で多数派が異なる「ねじれ国会」を許し、福田、麻生両政権が苦しみ、政権から転落した。石破氏は時に政権に苦言を呈し、党内では「苦しい時に後ろ足で砂をかける」との声が聞かれる。
自民参院議員は「『石破アレルギー』は強い」と語る一方、「国民と意識が近い石破氏がいるのは党の強さでもある」と語り、こう続けた。
「石破氏は究極のカード。本当に党が追い込まれた時に禁じ手を使う可能性はある」