台湾で4年ぶりに行われた総統選で与党、民主進歩党(民進党)候補の頼清徳副総統が最大野党、国民党の侯友宜・新北市長、野党第2党、民衆党の柯文哲・前台北市長を破って当選した。1996年の直接選挙開始以来、民進党は初めて3期連続で政権を担う。
総統選は「台湾は自国の領土」とする中国が軍事威嚇や統一攻勢を強める中で、中台関係や東アジア情勢に影響すると注目を集めた。中国は頼氏を「台湾独立派」と批判し、当選すれば戦争になる危険があると警告してきたが、台湾の有権者は中国の望まない候補者を選んだ。
当選後、頼氏は「外部からの介入を排除し、世界に民主的体制の尊さを示した」と誇った。
民進党は中国の圧力にはあらがうものの、台湾側から戦争を仕掛ける可能性はない。戦争になるかどうかは中国の胸三寸である。中国に対し、民主的に選ばれた結果を尊重し、中台関係の緊張を高めないよう自制を求める。
民進党は大陸にルーツを持つ国民党の独裁に反発し、民主化を求めて80年代に台湾で生まれた土着政党だ。かつては外来政権への反発から台湾独立をうたったが、今は憲法改正などによる独立を求めていない。
対中融和路線の国民党も中国が求める「一国二制度」による統一を拒否しており、「現状維持」は政党を問わないコンセンサスになっている。民進党の独立色を、ことさらに強調して、緊張を高めているのは中国の方だろう。頼氏は「現状を維持し、対等な立場を前提に交流や対話をする」と中国に呼びかけた。
中国は民進党の蔡英文政権との対話を拒否し、政権交代に期待をつないできたが、さらに4年同党政権の継続が確定した。いつまで対話を拒み続けるのか。台湾の民意と向き合うべきだ。圧力や懐柔策だけでは台湾人の心は離れていくだけだ。
今回の選挙は、2期8年続いた民進党政権に対する審判でもあった。長期政権化への反感も根強い。頼氏の得票率は40%、侯氏が33%、柯氏が26%。当選したとはいえ、民進党は4年前と比べ得票率を大きく減らし、野党2党を合わせた得票率は民進党を上回った。
同日実施された立法委員(国会議員)選(議席数113)で民進党が過半数割れし、国民党が第1党の座を奪ったのは批判の表れと言え、政権運営は難しくなる。低賃金や住宅費の高騰など経済面で不満は強い。民進党は、こうした声に応える必要がある。
中国政府は選挙結果について「民進党は主流の民意を代表できない」と反発した。
米中がイデオロギーや安全保障面における対立を先鋭化させる中で、民主主義陣営に属する台湾は、いや応なく米中対立の影響を受ける。台湾人自身も二大国のはざまで、苦悩の選択をした。ただ、それは民進党なら独立、国民党なら統一という単純な図式ではないことに留意したい。
5月の総統就任式へ向けて中国は軍事的な威嚇や経済的制裁などの圧力を強めるだろう。民進党政権には、中国に武力行使などの口実を与えないよう慎重な対応が求められる。
国際社会は中国に粘り強く台湾問題の平和解決を働きかけるとともに、中国が武力を行使しにくいよう複合的な抑止力を高めていく必要がある。