公立高校一般入試の試験開始を待つ受験生。島根県教委は2024年度入試から月経随伴症状に伴う体調不良も追試の対象とする=松江市内(資料)
公立高校一般入試の試験開始を待つ受験生。島根県教委は2024年度入試から月経随伴症状に伴う体調不良も追試の対象とする=松江市内(資料)

 月経痛や月経前症候群など月経に伴う体調不良(月経随伴症状)で公立高校入試を欠席した場合、2024年度入試から追試験の対象とすることを島根県教育委員会が決めた。鳥取県教委も同様の方針だ。「月経痛は我慢するもの」「怠けている」といった認識や偏見のもと、体調不良を押して試験に臨まざるを得なかった生徒にとっては安心感につながり、保護者からも歓迎の声が聞かれる。

 従来も認めていないわけではなかった。島根県教委が定める追試験の項目は、感染症の罹患(りかん)▽災害や不慮の事故等(とう)やむを得ない事情―の二つ。「等」があるため月経随伴症状も制度上は対象に含まれる。ただ具体例として明記されていないため、対象外という不文律や、言い出せない環境があったのだろう。過去に月経随伴症状で追試を受けた生徒はいないという。

 今回、初めて追試対象の具体例に「月経随伴症状等の体調不良等」と明記。医師の診断書の有無は問わず、生徒が属する中学校の校長が証明する申告書があれば可能となる。

 こうした動きの発端は23年11月の参院文教科学委員会。国民民主党の伊藤孝恵氏が月経痛も追試の対象と明記するよう要望した。都道府県教委によってはすでに明記している例もあり、文部科学省が統一的な対応を促すため、全国の教委に配慮を求める通知を同年内に出した。

 高校入試で明確に制度化された意義は大きい。受験をはじめ日常生活に支障を来すほどの月経痛は「月経困難症」というが、子宮内膜症など、原因となる疾患がない機能性困難症は、思春期に多く見られるからだ。

 おさらいすると月経は約1カ月に1回の周期で起こる。卵巣から卵子が排出されると同時に子宮内膜が厚くなり、受精卵の受け入れ体制を整える。受精や着床がなければ内膜がはがれ落ち、経血として排出される。これを2種類の女性ホルモンの分泌によって進めている。

 機能性困難症は、子宮や卵巣が未成熟であることや、経血を排出するため、子宮の収縮を促す物質「プロスタグランジン」の過剰分泌、ストレスなどが原因とされる。

 1999年に日本で認可された治療薬で女性ホルモンの成分を含む「低用量ピル」は、若年層でも服用者が増えているが、副作用が出る可能性もあって中学生の服用をためらう保護者もおり、鎮痛剤で対処するか、月経が終わるのをじっと待つしかない生徒が多い。

 今回の追試対象緩和で特筆すべきは、医師の診断書が絶対条件ではないことだ。思春期の月経周期は不安定で急に始まることもある。その際、診断書を早々に準備することは難しいが、中学校長の申告書は、試験当日の朝でも用意でき、臨機応変に対処できる。

 重要になるのは、学校や家庭内での正しい知識の共有だ。当事者が言いにくい雰囲気は厳然とあるだろう。無用な偏見にさらされないためにも、全生徒を含めた啓発は欠かせない。

 初経の低年齢化で、中学生でもひどい月経痛や月経前症候群には病気が隠れている可能性があり、必要に応じて医療機関への受診を促すべきだ。生徒が自分自身、友人の身体を思いやり、大切にする好機としたい。