自民党派閥の政治資金パーティーを巡る事件で、東京地検特捜部は安倍派(清和政策研究会)、岸田派(宏池会)など3派閥の会計責任者だった3人を政治資金規正法違反の罪に問う一方で、安倍派「5人組」など各派閥幹部の国会議員は立件を見送った。
安倍派は所属議員がノルマを超えて券を販売した分を議員側にキックバック(還流)するなどして、最近5年分で7億円近くを裏金にしたとされた。極めて悪質だ。政治資金収支報告書の不記載額は収支合わせて約13億5千万円に上る。
これだけの不正が事務職員である会計責任者=在宅起訴=1人の犯罪とする結論は、国民の納得を得られまい。特捜部は「会計責任者との共謀を認めるのは困難」と言うが、もっと具体的に説明してもらいたい。
安倍派には幹部が還流や裏金化を認識していたことをうかがわせる事情が存在する。仮に「共謀」がなかったとしても、幹部には不正を正す義務があったのに放置したと言わざるを得ない。
不記載額が約3億8千万円の二階派(志帥会)=元会計責任者を在宅起訴、約3千万円の岸田派=同略式起訴=についても、幹部による監督が不十分だったことは間違いない。
各派閥の幹部は政治的、道義的責任を免れず、立件見送りは決して免責ではないことを肝に銘じるべきだ。
もう「捜査中」を言い訳にはできない。今こそ、すべてを説明してもらいたい。
規正法は収支報告書の提出義務を会計責任者に課しており、政治家は共謀が認められた場合に刑事責任を問われる。共謀の認定には厳格な証明が要求され、詳細に報告を受け、具体的に指示したなどの立証が必要なことは理解できる。
しかし、安倍派では2022年に特殊な経緯があった。「5人組」の1人、西村康稔前経済産業相が事務総長だった同年4月、会長の安倍晋三元首相の意向で還流取りやめが決まったのに、7月の銃撃事件で元首相死去後、西村氏ら枢要な幹部が協議して方針を撤回。従来通りの処理が行われた。
会計責任者は幹部らの判断に従い、収支報告書に虚偽を記入した形だ。幹部が還流や裏金化を知らなかったと言えるはずがない。むしろ同年分については共謀があったと考える方が自然ではないのか。
通常国会までに終結させる前提だった特捜部の捜査は「尽くされた」と言えるのか。捜査などの適否はいずれ、検察審査会が告発人の申し立てを受けてチェックすることになろう。
安倍派の議員側では、4千万円を上回る還流分を収支報告書に記載せず裏金にしたとして、大野泰正参院議員=自民離党、谷川弥一衆院議員=同=と各秘書が起訴、略式起訴された。勾留中の池田佳隆衆院議員=自民除名=と秘書も近く訴追される見通しだ。
二階派会長の二階俊博元幹事長の事務所でも、ノルマ超過分の約3500万円を収入に記載しなかったとして二階氏の秘書が略式起訴された。
現職議員を含む8人が訴追された自民のガバナンス(組織統治)が厳しく問われている。党として事実認定し、各派閥幹部らの処分などを断行しなければならない。事件の総括をしないまま、信頼回復のスタート地点に立つことはできない。