能登半島地震の発生から3週間を迎えた。山陰両県でも最大震度4の揺れを観測した元日の激震で真っ先に心配したのが、日本海沿岸に警報や注意報が発表された津波の影響。2011年3月11日の東日本大震災で、町が大波にのみ込まれる惨状を思い出した人も多いだろう。
その次に思い浮かんだのが、原発への影響ではないか。東日本大震災による想定外の津波により東京電力福島第1原発事故が発生。23年2月時点の避難者は約3万1千人に及んだ。
能登半島にも震度7を観測した石川県志賀町に、停止中の北陸電力志賀原発がある。周辺の被害状況が次第に判明する中、原発について、原子力規制庁は津波の影響は確認されず、電源も確保されており、大きな異常はなかったと発表した。だが、その後、さまざまなトラブルが明らかになった。
1、2号機では、外部から電気を受けるために使う変圧器2台の配管が地震によって壊れ、絶縁や冷却のための油が漏れ出した。北陸電は当初、2号機の変圧器から漏れた油の量を約3500リットルと発表していたが、推計に誤りが見つかり、実際には5倍超の約1万9800リットルに上ったと修正した。
また、津波による水位の変動はなかったとしていたが、実際には約3メートルの津波が原発に到達していたことも分かった。
北陸電は、原発の敷地は高さ約11メートルで、さらに4メートルの防潮堤を設置しているため原発への影響はなかったと説明した。確かにそうなのだろうが、相次ぐ修正は、原発や電力会社に対する住民の不信感を増幅させた。
原発周辺にある放射線監視装置(モニタリングポスト)も一部が使えない状態で、原子力規制委員会の伴信彦委員は「リアルタイムで把握できないのは大きな問題」と指摘。規制委は安全上の問題はないとするものの、原発で観測した揺れの加速度が設計上の想定を一部でわずかに上回っていたことも明らかになった。住民にとって不安材料が増えるばかりだ。
もう一つの気がかりが複合災害への対応。規制委は今回の地震で家屋の倒壊や孤立集落が多発したことを受け、地震や津波と原発事故が重なる複合災害での屋内退避について、原子力災害対策指針を見直す方針だ。
現在の指針では、大量の放射性物質が放出される事故が起きた場合、原則として原発5キロ圏内の住民は避難、5~30キロ圏内は屋内退避することになる。
ただし今回の地震では、道路網が寸断され、孤立集落が発生した。多くの家屋も倒壊し、仮に原子力災害が発生した場合、避難や屋内退避そのものが成立しないことも十分想定される。新たな対応策が必要だ。
中国電力が8月に再稼働を目指す島根原発2号機(松江市鹿島町片句)を抱える山陰両県民も、決して人ごとではない。
2号機での事故を想定し、昨年11月にあった広域避難訓練には、原発30キロ圏に入る松江、出雲、安来、雲南、米子、境港の6市の住民計454人が参加。大きなトラブルはなかったが、地震と重なると混乱は必至だ。肝心な道路が寸断されれば、避難自体が見通せなくなる。
同じ日本海側で発生した地震は、複合災害への対応という重い課題を浮かび上がらせた。