派閥を解散すれば、失われた信頼を取り戻せると思っているのなら、勘違いも甚だしい。政治資金パーティーに絡む巨額の裏金づくりや不明朗な会計処理について、その実態を徹底的に調査した上で、包み隠さず説明し、責任の所在を明確にすることが党改革の第一歩である。
岸田文雄首相(自民党総裁)が自民党派閥の政治資金パーティーを巡る事件を受け、政治の信頼回復につなげるため、岸田派を解散する意向を表明した。まず派閥解消を主導することで、世論の厳しい逆風をかわすのが狙いだろう。
だが、党が置かれた状況はそれほど甘いものではない。なぜ裏金が必要だったのか、いつから誰が始めたのか、何に使っていたのか、収支報告書の不記載が頻発する理由など、疑惑の核心部分は何ら解明されていないからだ。派閥の会計責任者が立件されても、会長や事務総長ら派閥運営に責任を持つ議員たちが口をつぐんだままでは、到底国民は納得しまい。
政治とカネの問題の再発防止へ「火の玉になる」と宣言した首相が、不退転の決意を示したかったのは、容易に想像が付く。しかし、岸田派の政治資金に関して、首相は「事務的なミスの積み重ね」「それ以上のことは承知していない」とひとごとのように語るだけだ。まるで事務局の会計責任者にすべての責任を負わせるかのような姿勢を、国民はどう受け止めるだろうか。
首相が派閥を「国民から『カネやポストを求める場』と疑念の目が注がれている」と捉えた問題意識は正しい。ならば、総裁として党の政治刷新本部で、すべての派閥の解散を指示すべき場面だが、他派閥に関しては「申し上げる立場にない」と腰を引く。抜本的な党改革を成し遂げるためにリーダーシップを発揮しなければならない。
リクルート事件を踏まえ、1989年に自民党が策定した「政治改革大綱」では、派閥を解消し、人事・財政・組織の近代化を図る方針を高らかにうたっている。それに向け、少なくとも早急に講じるべきこととして、総裁、副総裁、幹事長ら党三役、閣僚の在任中の派閥離脱を挙げている。
ところが、いつの間にか大綱の精神はないがしろにされ、今回の政治資金問題が発覚して、野党の追及を浴びるまで、首相自身が会長にとどまっていたことは、不断の取り組みが必要な政治改革への熱意を疑わせた。
派閥を解散したからといって政治とカネの問題がクリアになるわけではない。派閥のパーティーはなくなっても、その代わりに政治家個人の資金集めパーティーがこれまで以上に増える可能性は十分予想される。自民党内ではパーティー券購入者の公開基準引き下げや、収支報告書の不記載などがあった場合の議員本人への連座制適用が検討課題に挙がる。
とはいえ、ここまで不信を招いた以上、野党が主張するように、パーティー券の購入も含め、企業・団体献金の全面禁止に、思い切って踏み込むべきではないのか。
いみじくも菅義偉前首相は刷新本部で「非常に分かりやすいのは派閥の解消だ。スタートラインとして進めていく必要がある」と訴えた。
岸田首相が苦境から脱するには、派閥解散だけでは足りない。もう一段の覚悟を見せるときだ。