中国電力島根原発(松江市鹿島町片句)が全停止して27日で丸12年を迎えた。不適切事案を繰り返した教訓から取り組む安全文化醸成は道半ばで、原子力規制委員会から厳しい指摘を受けたほか、昨年末に安全対策工事で死亡事故が起きた。2号機の8月再稼働を目指す中、6割以上いる稼働を知らない運転員の教育も課題だ。 (政経部・高見維吹)
「問いかける姿勢と報告する文化が不足していた」
昨年12月、東京都内であった規制委との意見交換会で、中電の中川賢剛社長が不適切事案を起こす原因を省みた。
計511カ所の点検漏れ(2010年)▽点検記録の偽造(15年)▽巡視業務の虚偽報告(20年)▽非公開文書の無断廃棄(21年)▽運転免許証を偽造した男の不正入構(22年)-などが発覚。事業者向けの電力販売のカルテルや新電力顧客情報の不正閲覧を含め、中電は「信頼が失墜した」と認める。

外部の意見を取り入れようと、2010年に設けた原子力安全文化有識者会議は計30回を重ねた。具体策を練るが、規制委の評価は厳しい。昨年12月の審査で本社の監視評価グループを原発に常駐させる中電の方針に対し、監視する側と監視される側が同じ部門に一元化することに疑問符がついた。
規制委の杉山智之委員は「もともと求められたことが監視体制の強化だったかは疑問だ。(安全文化は)立場に関係なく、間違ったことは間違っているとちゃんと言えるかどうかだ」と指摘。中電に次回審査でのさらなる説明を求めた。
2号機の再稼働に向け、原発を動かす運転員の経験不足も課題だ。
中電によると、2号機を担当する67人のうち42人が稼働の業務に従事したことがない。島根原発や事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型の再稼働実績は国内になく、中央制御室に見立てた「シミュレーション室」で運転操作や緊急時対応の訓練を積んでいる。

さらに、再稼働した他電力の加圧水型原発や中電の火力発電所に派遣。現場の音や振動、においなどを五感で感じ、イメージを膨らませる。
島根原子力本部の長谷川千晃本部長は「再稼働した加圧水型もブランク(空白期間)はあった。取り得る対応はしており、スキルアップのトレーニングに励んでいる」と強調する。
今年は島根1号機(廃炉作業中)の運転開始から50年の節目に当たる。島根に「国産1号」の原発が誕生して以降の地域との関係性や原発が全停止した12年の間に退職した同僚をおもんぱかり、長谷川本部長は「歴史は重い。今いるわれわれが再稼働の責任をしっかり果たす」と気を引き締めた。
原発構内で2号機の安全対策工事を進める中、昨年末に廃棄物処理施設で協力会社の男性作業員が落下したコンクリート塊の下敷きとなり、死亡する事故が発生。原因と再発防止策は確定しておらず、事故現場の安全対策工事は止まったままだ。
12年ぶりの稼働が現実味を帯びる中、地元は中電の対策と姿勢を見守る。旧鹿島町議会で最後の議長を務めた青山真一郎さん(76)=松江市鹿島町恵曇=は「事故は人為ミスから起きる。安全のために人材育成と適材適所の人材配置を何より優先しないといけない」とくぎを刺した。