3日、イラク・カイムで、米軍による空爆で大破した民兵組織の施設(人民動員隊・PMF提供、ゲッティ=共同)
3日、イラク・カイムで、米軍による空爆で大破した民兵組織の施設(人民動員隊・PMF提供、ゲッティ=共同)

 米国は、ヨルダンの米軍施設で米兵3人が死亡した無人機攻撃への報復として、イラクとシリアで親イラン民兵組織などに対する攻撃に踏み切った。バイデン米大統領は「中東で戦争の拡大は必要ない」と明言するが、報復の応酬が続くことが懸念される。

 昨年10月にパレスチナ自治区ガザで始まったイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘をきっかけに、中東全域で情勢が流動化しつつある。米国には地域の安定を最大限尊重した賢明な対応が求められる。

 米中央軍は、親イラン武装勢力の連合体「イラクのイスラム抵抗運動」が無人機攻撃を実行したと分析。イラン革命防衛隊で対外工作を担う「コッズ部隊」や親イラン民兵組織などを狙い、七つの施設で85以上の標的を空爆した。イラク首相府やシリア人権監視団によると計45人が死亡した。背後にいるイランをけん制するのが攻撃の目的だが、効果は未知数だ。

 バイデン氏の攻撃決断には、11月の大統領選をにらんだ政治的思惑が影響している。

 ガザの戦闘開始以降、中東で米兵が攻撃により死亡したのは初めてで、米兵の「戦死」に毅然(きぜん)とした対応をしなければ、大統領選で共和党候補指名獲得に王手をかけているトランプ前大統領から弱腰との非難を浴びるのは必至だった。

 米本土からB1B戦略爆撃機を飛来させ攻撃に参加させたのは「強い米国」を内外に誇示する戦略でもある。

 2021年8月のアフガニスタン撤退時、多数の米兵が爆弾テロで死亡した際の不手際は、今もバイデン氏に対する攻撃材料となっている。ヨルダンでの米兵死亡を受け、時を置かずに報復する方針を表明したのは批判をかわすためだったのは間違いない。

 ガザの戦闘開始後、米国は地中海へ空母打撃群を派遣し、レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラがイスラエル北部に介入するのをけん制した。

 また、紅海航行中の商船などを狙ってミサイル攻撃を繰り返すイエメンの親イラン武装組織フーシ派に報復攻撃をしている。イラクとシリアでの攻撃の翌日も、米英両軍がフーシ派を攻撃した。

 いずれもイランが各地の親イラン組織を操ってガザ情勢を利用するのを抑止する狙いだが、これで米国はイスラエル周辺で3方面作戦を展開することになった。バイデン氏の言葉とは裏腹に、なし崩し的に介入拡大のサイクルに入っている。イランの対米強硬派が望む構図に自ら入り込んでいないだろうか。

 バイデン氏はイスラエルを支持するのと並行して、ガザで民間人被害を減らすようネタニヤフ政権に圧力をかける微妙なかじ取りを迫られてきた。だが現実にはガザでイスラエルの過剰攻撃が民間人のイスラム教徒多数の命を日々奪っており、イスラエルとその後ろ盾の米国に対する反発が中東全域で高まっている。

 今回の報復攻撃では、イラン外務省報道官が「地域の緊張と不安定さを増すだけだ」と非難したのに加え、国家主権を侵害された形のイラクも反発しており、中東情勢の不確定要素を増やしてしまった。

 米国は親イラン民兵組織などへの報復攻撃を続ける方針を示しているが、フーシ派への攻撃と合わせ、攻撃の長期化は避けなければならない。