性的な暴力を受けた人からの相談を受け、心身の回復をサポートする「しまね性暴力被害者支援センターさひめ」が1月、設立から10年を迎えた。「同意のない性的接触は全て性暴力」との認識と理解が広がりつつあるが、団体への相談は絶えない。
性暴力は「魂の殺人」と例えられる。設立時から携わる、さひめの河野美江理事(60)は「被害者は心身ともに傷つき、生きるだけでやっとという状態で相談する」と話す。さひめには2014~22年度に電話で延べ329件、メールで同1042件の相談があった。
被害者が事情を何度も説明するのは大きな苦痛だ。内閣府は11年、被害直後から産婦人科医の診察や性感染症の検査、警察や弁護士への連絡など総合的な支援を1カ所で提供する「ワンストップ支援センター」の設置を呼びかけ、現在は全都道府県に置かれた。さひめもその一つで14年、女性の産婦人科医や弁護士らが任意団体として設立した。
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開設以降、性犯罪を巡る動きが相次いだ。17年の刑法改正で強姦罪が「強制性交罪」と名称が変わり、男女ともに被害者になる可能性があるとされ、法定刑が引き上げられた。さらに23年には「不同意性交罪」となり、同意のない性行為は犯罪になり得るとした。
暴行や脅迫がなくても、アルコールや薬物の影響、相手との関係性によって抵抗できなかったケースも罪に問える。性的な部位を撮影された場合の「撮影罪」など新たな規定もできた。
罪に問える範囲が広がり、さひめへの相談内容も変わった。「これは性暴力ではないか」と被害直後からの相談が増えてきたという。河野理事は「これまでは被害者も悪いなどと言われることがあったが、法改正で性被害として受け取られるようになった」と実感する。
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一方、旧ジャニーズ事務所の性加害報道で、男性への性暴力にも関心が高まった。しかし実態が十分に知られておらず、男性被害者は「相談しても信じてもらえないのではないか」と抱え込むことが少なくないという。さひめは男性の相談に応じる体制も整えた。
子どもを性暴力から守るため、知識を持つことが抑止になるとして、啓発にも注力する。リーフレットを作成し、望まない性的行為は全て性暴力だと注意喚起する。保護者が被害状況を聞き出すうちに記憶が変化することがあるとして、子どもが被害に遭ったら病院や警察にすぐに連絡することも勧めている。
さひめの支援員は60代を中心に約40人で、週3回の電話相談にボランティアで応じる。後継者育成が課題で、河野理事は「性暴力被害は身近にあると、まずは知ってほしい。そして、支援する仲間になってもらいたい」と呼びかける。
電話相談は火、木、土曜の午後5時半~9時半。電話0852(28)0889。メール相談はホームページ(https://sahime.onnanokonotameno-er.com/)から。(山口春絵)
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▼23日、松江で記念講演会
さひめ設立10周年を記念し講演会「子どもたちの生と性 『さらば悲しみの性』から39年」が23日、松江市殿町の島根県民会館である。産婦人科医で、著書に「さらば悲しみの性」などがある、NPO法人性暴力被害者サポートひろしま理事の河野美代子さんが語る。
資料代500円。20日までにファクスかメールで申し込む。問い合わせ、申し込みはしまね性暴力被害者支援センターさひめ事務局、ファクス0852(32)6567、メールshimane.sahime@gmail.com