障害や病気のある人のきょうだいが抱える思いを語る増田美佳さん(右)=松江市白潟本町、市民活動センター
障害や病気のある人のきょうだいが抱える思いを語る増田美佳さん(右)=松江市白潟本町、市民活動センター

 障害や病気のある人の兄弟姉妹は、身内の「きょうだい」のために偏見や差別に心を痛めたり、親に遠慮して自分の気持ちを抑えたりすることがあるという。「岡山きょうだい会」の代表で、ダウン症の弟がいる増田美佳さん(51)=岡山市在住=が松江市内で講演し理解を求めた。講演の内容を詳報する。 (山口春絵)

 兄弟姉妹に障害や病気のある人がいる子どもは「きょうだい児」と表現され、日本に約666万人前後と推測されるが、正確な数字は不明。きょうだい児が注目されるようになったのはごく最近で、2018年に会を立ち上げた時はあまり知られていなかった。

 大きな悩みは障害への偏見や差別。子どもは悪気なく障害のある子を「変だ」などと言うことがある。きょうだい児は嫌な思いをしても「悲しむだろうから」と親に言えない。障害のある兄弟姉妹の存在ではなく、周囲の言動に傷つく。

 わが家の場合、ダウン症の弟は周囲にかわいがられた。私は幼い頃から食事や入浴などの介助を担っていた。それが「普通」なので、困ることがないわけではないが、助けてもらうほどでもないと思っていた。私のような立場の人が周囲に望むサポートが「何もない」と言っても、言葉通りに捉えるのは危険だ。

 きょうだいを縛る「透明な鎖」がある。心配をかけまいと空気を読み過ぎて、物分かりが良く、変に大人びる。半面、「いつまで自分が世話をするのだろうか」と漠然とした不安も感じる。親はきょうだいと2人きりの時間を設けてほしい。「自分を分かってくれている」と、満たされることが大切だ。

 きょうだい児は進学や就職で福祉の道を選ぶ人が多い。憧れに加えて「こうした方が家族が助かる」と考える、思考の癖があるからだと思う。恋愛や結婚は20~30代の悩みどころ。障害を理由に、相手の親族から破談にされるケースはいまだにある。誰もが差別はいけないと分かっていても、自分の家族に関わるとなると、敬遠されてしまう。

 親の介護や「親亡き後」のケアの在り方にも悩む。「親は半生、きょうだいは一生」という言葉がある。ケアは幼少期だけでなく、大人になっても続くが、関係が良好な家庭ばかりではなく、背景によって必要な支援が変わる。障害のある子が大切なのは親もきょうだいも同じだが、親とは熱量が違う。きょうだいにも各自の生活や家族があることを知り、親と同じケアを求めないでほしい。

□ 松江市障がい者基幹相談支援センター絆が主催し、福祉従事者など40人が聞いた。きょうだいが題材の朗読劇などを手がける演劇ユニット「LOOP10(ループテン)」(岡山市)の藤原康典代表(54)との議論や即興演劇のワークショップもあった。