カナダの音楽ユニット、デレリアムは1997年のアルバム「カルマ」で名を上げた。エニグマやディープ・フォレストのように宗教音楽や民族音楽とエレクトロビートを組み合わせながら、ゲストの女性歌手を前面に出し、ポップさも併せ持つ傑作。収録曲「サイレンス」がヒットし、日本では確か、車のCMに使われた。
「サイレンス」はグレゴリオ聖歌とエレクトロビートの取り合わせに哀愁漂うギターを加え、歌手サラ・マクラクランがゆったりと包み込むように歌う。サビの「サーイレンス」という叫びは胸に染みる。オランダのDJティエストによるリミックス版も当たった。
ほかにも幻想的な癒やし系の曲が並ぶ。「トワイライト」は中東風のメロディーにアフリカの小柄な民族の歌声、そして、女性のあえぎ声。まさにディープ・フォレスト+エニグマという感じだ。とりわけ興味深いのが「フォーガットン・ワールド」。デッド・カン・ダンスのボーカリスト、リサ・ジェラルドの歌を加えて暗い雰囲気も醸しながら、柔らかく透明感のある曲に変化する。
デッド・カン・ダンスは民族音楽、宗教音楽風のダークな曲とリサの呪術的な歌が特徴の個性派バンド。
初期のデレリアムは同様なダーク路線だった。例えば90年のアルバム「シロフェニカン」。収録曲の「エンボディイング」はおどろおどろしいパーカッションが鳴り響き、呪文のような声は入るが歌はない。「ミソス」はインダストリアル系の不気味な曲で、機械や叫び声のような音が入る。

94年のアルバム「セマンティック・スペース」で女性歌手を起用して作風を改め「カルマ」で花開いた。だから「フォーガットン・ワールド」は初期のダークさを織り交ぜながら、聴きやすく仕上げたデレリアムの進化が感じられるのだ。
その後の作品は歌手がさらに前面に出て宗教音楽、民族音楽の味付けは薄れ、ますますポップになった。2006年のアルバム「ヌアージュ・デュ・モンド」の収録曲「アンジェリクス」はオペラ歌手イザベル・バイラクダリアンが「アーアアアアー」という風に「アー」だけで歌い(たまに「イェー」も入る)、美声がじっくりと味わえる。03年のアルバム「キメラ」の収録曲「アフター・オール」はエフェクトをかけた歌声とキャッチーなメロディーが頭に残る。
一方で初期も捨てがたい味があり、アルバム全体の完成度は「カルマ」が突出する。闇の深みがあってこそ光の輝きが増すというのか、デレリアムの重層的な魅力を感じるアルバムだ。
(志)