フラメンコから派生した音楽だが一般的にはフラメンコよりなじみ深い。フランスのバンド、ジプシーキングスは1980年代後半から90年代初めにかけ「ジョビ・ジョバ」「バンボレオ」「ボラーレ」といったヒット曲を放ち、日本でテレビCMにも使われた。
「ジョビ・ジョバ」(1987年のアルバム「ジプシーキングス」に収録)は思い出深い。大学時代の90年代前半によく聴いたFMの深夜番組「坂崎幸之助のNORUSORU」で毎回流れ、頭に染み込んだ。長女が赤ちゃんの頃によく聴かせた曲でもある。手足を激しくバタバタさせていたので、喜んでいると推察していたが、騒々しくて嫌がっていたのかもしれない。
ジプシーキングスはジャカジャカと弦をかき鳴らすラスゲアード奏法、表面をたたくゴルペといったフラメンコギターの技を多用する。スペイン語で歌い、手拍子が入り、フラメンコっぽさ十分。実のところはスペインからフランスに移ったロマ民族(ジプシー)がフラメンコの一形式ルンバ・フラメンカから派生させた独自の音楽に根を張り、フラメンコ(ルンバ・フラメンカ含む)とはリズムや演奏スタイルが異なる。
例えるなら伝統芸能・因幡の傘踊りとそれをアレンジした鳥取しゃんしゃん祭の傘踊りみたいに違う。
フラメンコは独特のリズムが重視され、メリハリがあり、かちっとしている。例えばフラメンコギターの巨匠パコ・デ・ルシアの曲「セパ・アンダルーサ」は手拍子がずっとリズムを刻み、この特徴が分かりやすい。リズムはいくつかの形式があり「○○形式」と言えばギター、歌、踊りがぴたりと息を合わせられる。ギター奏者は形式のリズムに沿いつつ、自分なりのメロディーを奏でるのが腕の見せどころ。ラスゲアード奏法やゴルペはアクセント程度で、多用しない。
ジプシーキングスの音楽はシンプルなリズムで、ずっと、ジャカジャカジャカジャカ…と弾く、乗り重視の演奏。メリハリはあまりなく、ふわっとしている。
持ち前の乗りの良い曲で好評を得ながら、フラメンコの形式に則す曲もわずかにあるのが興味深い。「モザイク」(1989年の同名アルバムに収録)はブレリア形式、「セイバー・フラメンコ」(2013年の同名アルバムに収録)はタンゴ形式の曲。それぞれ、パコの曲でブレリア形式の「アルモライマ」、タンゴ形式の「ソロ・キエロ・カミナール」にそっくりだ。
同じ形式だと雰囲気が近くなるとはいえ、パコの他の曲より似ている。ここまで寄せたのはフラメンコはもとより親交のあったパコへのオマージュだろうか。「ジョビ・ジョバ」の乗りを期待して聴くと戸惑うかもしれないが、フラメンコへの入り口になるといい。
(志)













