新型コロナウイルスの感染予防を徹底した環境は、子どもの育ちに影響するのか。マスク着用で表情が読みづらかったり、外出を控えて同居家族以外の人と会う機会が減ったりしている中、子どもと関わる大人にできることは何か。島根大教職大学院の原広治教授(62)=子育て・子育ち支援、特別支援教育=は「何げない日常にも、子どもの育ちを促せるチャンスはある」と説く。 (増田枝里子)
保育園や幼稚園、学校の行事は中止や縮小が相次ぐ。遠方の祖父母や親戚にも会いには行けないし、遠出や旅行も控えている。大人にできることは、本来できるはずだったイベントの「代替案」を考えるか、できないから「発想を変える」かのどちらかだ。原教授は「できないからこそ視点を変える」ことを勧める。
そもそも、行事は何のためにあるのか。運動会なら「やったあ!」「頑張った」「悔しかったね」といったさまざまな気持ちや感情を仲間や家族と共有することに大きな意義がある。旅行や遠出も同じで、行き先で楽しいことがあったり、美しいものを見たりしたときに、気持ちを共有する。そこでの共感が、子どもにとって「最高の栄養」だと原教授は強調する。コロナ禍でその機会が減っているからこそ「気持ちを共有する」場面を、あえて日常につくり出すといい。
ただし特別なことは家事や仕事を抱える大人には負担になる。原教授は「『必ず毎日繰り返されること』を活用して」とアドバイスする。
朝起きる、顔を洗う、着替える、ご飯を食べる、靴を履く、車に乗る、買い物に行く、風呂に入る、寝かしつける…といったようなこと。こうした毎日繰り返される行為のうち、一つだけでも子どもにとって「楽しく」する工夫をしてみるといい。
工夫といっても、子どもが喜ぶように人形を使うとか、子どもの気持ちに寄り添うといったことでいい。子どもにとっては「一番大好きな人(=保護者)が、ちゃんと自分と向き合って、気持ちを共有してくれた」という経験が何よりも大事だからだ。
「情動調律」という交流の方法がある。子どもがうれしいことに対して大人がうれしい反応をすると、プラスの感情が膨らむ。反対に嫌なこと、悲しいことは「嫌だったね」と受け止めてやると、負の気持ちが小さくなる。これを繰り返すうちに子どもは正も負も、あらゆる感情を抱えて生きていけるようになる。
料理や洗濯、掃除などの家事を手伝わせてみるのもいい。保護者とコミュニケーションをとる機会になるからだ。役割を与え、できてもできなくても「頑張ったね」と認めてやると、自己肯定感が高まる。
原教授は「特別な行事ができなくても、こうした積み重ねがあれば、子どもの心は育っていく」と話している。