肝臓がんのため79歳で永眠した医師竹中文良の「お別れの会」が2010年9月、都内で開かれた。がん患者や家族を精神的に支える活動に心血を注いだ竹中。その功績と人柄に魅了された参列者の中に、エッセイスト岸本葉子(59)がいた。

 湿っぽくなく、和やかに進んだ会。岸本は遺影の前で最後の別れを告げようとした。その瞬間、涙がほおを伝う。母の葬儀の時でさえ泣かなかったのに。「竹中先生との出会いなくして、私の今は語れません」
 

倦怠感


 岸本が体に異変を感じたのは2000年7月。夕方帰宅すると、経験のない倦怠(けんたい)感に襲われた。関節痛、腰の痛み。腹部の腫れもある。エコー検査で子宮、卵巣に異常なし。ただ血液検査で炎症反応の数値が高かった。

 痛みをとる消炎剤服用で痛みは治まるが、しばらく立つと数値が再び上昇した。01年10月、腸にバリウムを入れる注腸造影検査を受けた。大腸にポリープが見つかる。「2センチというのは小さくないですね」。担当医師は眉間にしわを寄せた。岸本の心臓の鼓動が早まった。

 岸本は別の医師の意見も聞きたいと思った。...