自民党の党紀委員会に臨む茂木幹事長(中央)ら=4日午後、東京・永田町の党本部
自民党の党紀委員会に臨む茂木幹事長(中央)ら=4日午後、東京・永田町の党本部

 「裏金議員」の処分で一件落着にはならない。このまま真相解明を放置し、幕引きを図るなら、岸田文雄首相の政治改革への決意が疑われよう。

 自民党は、派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、安倍、二階両派の関係議員ら39人に処分を下した。

 安倍派幹部の塩谷立元文部科学相と世耕弘成前参院幹事長に離党勧告、西村康稔前経済産業相と下村博文元政調会長には党員資格停止1年の処分を科した。二階派の武田良太元総務相は党役職停止1年だった。

 党内規には8段階の処分が定められ、離党勧告は最も重い除名に次ぐ2番目、党員資格停止は3番目に当たる処分だ。

 政治資金収支報告書に載せない安倍派の資金還流は、安倍晋三元首相が2022年4月に中止を指示したが、安倍氏死去後の同年8月に開かれた幹部協議を経て復活した。

 協議に参加した塩谷氏ら安倍派の4氏はその経緯を知りうる立場にありながら、国会の政治倫理審査会では責任逃れの姿勢に終始していた。

 塩谷、世耕両氏への離党勧告は、衆院側、参院側でそれぞれ代表的地位にあり、政治責任は重大だと認定されたためだ。

 裏金事件で立件されず、除名処分は免れたものの、離党すれば、選挙運動や国会活動で著しく制約を受ける。政治生命に関わるが、党総裁の岸田首相は役職歴や説明責任の果たし方を踏まえ、「厳しく対応する」と述べていた。離党勧告は当然の処分と言っていい。

 釈然としないのは、安倍派の実力者「5人組」の間で処分に差をつけたことだ。萩生田光一前政調会長は幹部協議から外れていたとはいえ、不記載額は5年間で2728万円と飛び抜けて多い。それでも処分は、事実上無役である今の立場と変わらない党役職停止1年にとどまった。

 安倍、二階両派の幹部以外の処分対象を、収支報告書の不記載額が500万円以上の議員らに絞った根拠も不明瞭だ。

 国会議員なら不記載が違法であると認識していてしかるべきだ。500万円未満であっても、不記載は議員としての適格性に疑念を抱かせる。

 不可解さが残る処分になったのはなぜか。関係議員を軒並み厳格に処分すれば、党内の猛反発に遭って首相の政権運営に支障を来すと判断したのではないか。立件対象者を除き不記載額が3526万円と最多の二階俊博元幹事長の処分は、次期衆院選への不出馬表明を理由に見送られた。同様の内向きな配慮が働いたと受け止められても仕方あるまい。

 裏金還流が誰の指示でいつ始まったのか、その目的は何だったのか。また、いったん中止を決めながら誰が主導して再開させたか。国民の不信感の大本は、首相自身が追加聴取を行いながら、それらが明確になっていないことにある。

 巨額の裏金還流は、民間企業であれば経営陣の進退が問われるほどの不正経理に相当する。岸田派は元会計責任者が立件されたものの、会長だった首相に不記載はなく、処分対象外であったが、党のトップとしての責任は重大だ。

 自民党は今年の運動方針で「解体的出直し」を誓ったはずだ。首相が本気で政治改革に取り組むのであれば、裏金還流の真相を徹底究明し、その上で改めて処分を断行すべきだろう。