「もしドラ」という言葉が流行したのが2010年のこと。その年のベストセラーになった岩崎夏海さんの小説で、映画やアニメ化もされた「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の略称である。
14年たった今、「もしドラ」ならぬ「もしトラ」という言葉が世間をにぎわせている。こちらは「もしトランプ氏が米大統領に返り咲いたら」の略称。
笑い話ではなく、現実味を帯びてきている。米大統領選の共和党候補指名争いで圧勝。世論調査では民主党の現職バイデン氏を上回る支持を集めており、11月の本選で再対決となれば雪辱を果たしそうな勢いという。
このニュースは山陰で暮らすわれわれにとっても無関係ではない。トランプ氏が同盟国にも強硬に接する「米国第一主義」を復活させ、過度な保護主義政策を進めれば、製造業を中心に影響が出る可能性もある。
トランプ氏が事前の世論調査結果を覆し、民主党のヒラリー・クリントン氏を破った16年の大統領選を機に、偽情報や誤情報を表す「フェイクニュース」という言葉が世界に広まった。
マケドニア(現北マケドニア)の学生が広告収入を目的に、大量の偽・誤情報を作成。「ローマ法王がトランプ支持を表明した」「ヒラリーが過激派組織IS(イスラム国)に武器を供与した」などという明らかな偽情報が交流サイト(SNS)を通じて拡散され、投票結果に影響を及ぼしたとされる。
フェイクニュースは海の向こうの話と思いがちだが、実は身近なところにも浸透している。
新型コロナウイルスの感染が拡大した頃には「コロナワクチン接種は周囲に病気をまき散らす」「コロナワクチンは人口減少をもくろんだものだ」などの偽情報が拡散。特に「コロナワクチンを打つと不妊になる」という偽情報は世間の大きな注目を集め、厚生労働省が公式に否定する事態になった。
元日に起きた能登半島地震でも、X(旧ツイッター)を中心に虚偽とみられる救助要請や「人工地震」などという根拠のない情報が拡散された。真偽の分からない情報が氾濫すると、本当に有益な正しい情報が必要な人に届かなくなる。山陰両県民にとっても人ごとではない。
こうした偽情報を打ち消すのもマスコミの役割だ。最大震度7を観測した16年4月の熊本地震では発生直後、動物園のライオンが脱走したという偽情報が別の画像と共に拡散されたが、地元紙記者が現場を取材し「ライオンは逃げていない」と報じたことで騒ぎが収束した。
日本新聞協会広告委員会が昨年9~10月に全国の15~79歳の男女1200人を対象に行ったメディア評価の調査によると、新聞は「安心できる」(47・1%)「情報が正確で信頼性が高い」(46・0%)などの評価が、インターネットに比べて高かったという。
4月6日から1週間は、日本新聞協会が定めた「春の新聞週間」で、初日のきょうは「新聞をヨ(4)ム(6)日」。単なる語呂合わせだけではない。進級・進学や就職といった機会に合わせ、新聞の価値を知ってもらうのが狙いだ。刻々と動く世界との距離を本紙やデジタル版「Sデジ」を通じて縮めてほしい。