当欄を担当する論説委員になって丸12年が過ぎた。生まれたばかりの赤ちゃんが小学6年生になる歳月。手がけたコラムは500本を超えた。
ただ上には上がいる。先日の本紙「新刊」コーナーで紹介したが、神戸新聞の1面コラム「正平調(せいへいちょう)」の執筆を通算16年間務めた林芳樹さんが手がけたのは1927本。同じ「コラム書き」ながら、とても足元にも及ばない。
論を説かず、情けを語り、光の当たらない一隅を照らし続ける。林さんはそう心がけていたという。新聞の1面コラムは読者の喜怒哀楽に寄り添い、頭ではなく心に訴えかけるのが真骨頂。「情けを語る」とは言い得て妙だ。
ただし「論を説く」のも文字通り、論説委員の役割。新聞社の考えを表す論説(社説)も担うが、コラムに比べお堅いせいか読者の覚えは芳しくない。小説家丸谷才一氏は新聞社の女性論説委員と政府の攻防を描いた長編作品『女ざかり』(1993年刊行)の中で<新聞の論説は読まれることまことにすくなく、一説によると全国の論説委員を合計した数しか読者がいない>と揶揄(やゆ)していた。
他紙の仲間と顔を合わせると必ず話に出るのが「どうすれば論説を大勢に読んでもらえるか」。写真を付けるなど試行錯誤しているが、要は読み応えだろう。本紙では3面左上にある。試しに目を向け、頭で感じてほしい。きょう4月6日は語呂合わせで「新聞をヨ(4)ム(6)日」。(健)