イスラエル軍とイスラム組織ハマスが、パレスチナ自治区ガザで戦闘を始めてから7日で半年を迎えた。これを機に問いたい。私たちはこの惨劇に慣れてしまっていないか。事態の悪化阻止は、国際社会の責任だ。
きっかけをつくったのはハマスであり責任は重い。昨年10月7日、ガザに近いイスラエルの音楽祭や集団農場を襲撃、約1200人もの罪のない市民を殺害した上、200人を超える人質を組織の拠点であるガザへ拉致した。
被害者には赤ん坊や老人が含まれ、処刑スタイルや強姦(ごうかん)を伴う殺害もあったとされる。1948年のイスラエル建国以来、虐げられ続けたパレスチナ人の苦難を考慮しても、到底正当化はできない。
第2次大戦中のユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)以来の悲劇に見舞われたイスラエル側の怒りも理解はできる。しかし圧倒的に優勢なイスラエル軍の半年間に及ぶ攻撃は、ガザ市民ら3万3千人以上の命を奪った。ガザの長期封鎖によって、飢餓すら発生している。
それでもイスラエルの右派市民を取材すると「もっと激しい攻撃をしてもいい」とすら話す。世論調査でもパレスチナに対する人命軽視の傾向が浮かぶ。ホロコーストの歴史を胸に刻む国民が、なぜ飢餓を容認できるのか。
後ろ盾である米国がようやく圧力を強めつつあるが、イスラエルのネタニヤフ政権は、ハマスの残党部隊が潜んでいるとされるガザ南部ラファへの侵攻計画を捨てていない。ラファには避難民ら約150万人が密集しており、攻撃に踏み切れば犠牲拡大は不可避だ。
国連人権理事会が任命した特別報告者は、ガザの状況を「ジェノサイド(民族大量虐殺)の域に達した」と指摘した。さらにイスラエル軍が食料支援団体「ワールド・セントラル・キッチン」の車両を攻撃し、メンバー7人が死亡する悲劇が起きた。ガザを軍事的に封鎖している以上、食料の安全供給を確保する責任がイスラエル側にあるのは言うまでもない。
世界は飢餓と虐殺を容認しない。事態が悪化すれば、これまで封印されてきたイスラエルに対する何らかの制裁案の検討が浮上する可能性がある。イスラエル政府は、そのことを覚悟すべきだ。
半年で戦火の拡散も深刻化した。ガザ侵攻に反発するイエメンのフーシ派は、紅海とアデン湾で船舶への攻撃を続け、世界貿易の主要ルートに打撃を与えた。レバノンのヒズボラは、イスラエル領内へミサイル攻撃を実行している。いずれも親イランの武装組織だ。
1日には、シリアにあるイランの公館がミサイル攻撃を受け、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の将官らが死亡した。ヒズボラの攻勢に対するイスラエルの報復とみられている。公館はウィーン条約で「不可侵」とされ、攻撃は重大な国際法違反だ。イランが報復を宣言するなど、ガザ情勢は地域を急激に不安定化させている。
イスラエルがこれ以上国際的な孤立を深めれば、ハマスを壊滅させたとしても国家の安全保障は強化されない。国連によればガザの医療施設の84%、主要道路の92%が破壊され、再建の希望は失われつつある。イスラエルとハマスはこれ以上、ガザの未来を踏みにじる消耗戦を続けてはならない。