一般ドライバーが自家用車を使って有料で客を運ぶライドシェアが部分的に解禁された。4月はまず東京、横浜、名古屋、京都などの都市部でスタート。その後、札幌、仙台、大阪、福岡などでも始まる。
管理運営主体をタクシー会社に限定し、IT企業が主体の欧米などとは異なるため「日本版ライドシェア」と称されている。国が指定した地域、曜日、時間帯に限られ、それぞれの区域で運行する台数には上限がある。
やや窮屈な印象も受けるが、安全性確保に万全を期さなければならない。地域の公共交通システムの激変も好ましくなく、慎重なスタートは理解できる。
ただ、乗客の利便性向上に効果が得られなければ、導入した意味はない。運行を請け負う一般ドライバーにとっても、一定の収入が見込めるなど魅力ある仕事にならなければ、人材も集まらず事業としての成立も危うくなる。
政府は6月までに、タクシー会社以外の他業種の参入を可能にする法制化の是非を判断する方針だ。安全確保は大前提だが、硬直的な運営は、新たなサービスの可能性を奪ってしまいかねない。
担当閣僚の河野太郎デジタル行財政改革担当相は「(部分解禁で)結果が出なければルールをどんどん変え、移動の自由の制約を解消する」との考えを表明している。運行状況や乗客の満足度、ドライバーの収入など各種のデータを分析した上で、各種規制の妥当性を再点検することが欠かせない。タクシー不足を補い、必要なときに、いつでも利用できるサービス供給に向け実効性ある制度を求めたい。
ライドシェアを巡っては、規制緩和をにらんで新興企業が参入を表明する動きも目立ってきた。フリマアプリ大手メルカリなどが出資する「newmo(ニューモ)」は今秋に大阪で事業を始め、2025年大阪・関西万博の輸送需要に対応するとしている。
当面は地元のタクシー会社と提携。25年以降は全国各地で展開し、交流サイト(SNS)などでPRを強化、1万人のドライバー確保を目指す。
ライドシェアの制度設計では、デジタル経済の利便性を活用して、既存の公共交通体系を時代に適応したシステムに改めるチャンスととらえる視点も重要だ。何も、米配車大手ウーバー・テクノロジーズが市場を席巻する欧米のようなスタイルを目指すべきだと言っているのではない。日本の経済社会に適した形があるはずだ。
タクシー会社は長年、地域に密着し、きめ細かいサービスを通じて地域社会に貢献してきた。デジタル技術を活用してこうした分野のサービスを強化すれば、新たな需要も生まれてくるのではないか。ライドシェアの部分解禁を担うタクシー会社は、ライドシェア運営のノウハウを取得することができる。これも活用できるはずだ。
「日本版ライドシェア」の一方で、自治体が主導する「自治体ライドシェア」も、石川県小松市で始まるなど活発になってきた。これまでは過疎地域などが対象だったが昨年末、夜間などバスやタクシーが乏しい時間帯も運行が可能になり、より多くの地域で導入できるようになった。各地の事情に合わせた交通サービスの発展に官民で知恵を絞りたい。