アルバム「トラベラー」
アルバム「トラベラー」

 インドの弦楽器シタールの奏者アヌーシュカ・シャンカールのアルバム「トラベラー」(2011年)が素晴らしい。インド音楽を源流の一つとするフラメンコとのコラボ作品。収録曲「ブレリア・コン・リカルド」はフラメンコの手拍子を背景にシタールとピアノが掛け合いを演じる。ジャズっぽい雰囲気もあり、とてもかっこいい。

 シタールの音色がエキゾチックで、速弾きが圧巻。フラメンコ風に弾いているのかと思いきや、純粋なインド音楽の演奏だとか。それでもフラメンコと合うのは源流ゆえか。フラメンコギター奏者パコ・デ・ルシアがアラブの弦楽器ウードを奏でる曲「アルモライマ」を初めて聴いた時くらいの衝撃を感じた(フラメンコの別の源流はアラブ系の音楽だとされる)。

 フラメンコとインド音楽のコラボは、パコの盟友のフラメンコ歌手カマロン・デ・ラ・イスラの曲「ナナ・デル・カバジョ・グランデ」という先例がある。この曲がかなりインド音楽寄りなのと比べ「ブレリア・コン・リカルド」はバランスが絶妙なのもいい。

 ピアノソロも聴きどころだ。フラメンコのリズムに乗せ、激しさを増す情熱的な演奏は、パコと共演したジャズピアノ奏者チック・コリアを思い起こさせる。

アルバム「トラベラー」


 「トラベラー」収録曲はほかにフラメンコ歌手との共演、フラメンコダンサーの足拍子との共演、フラメンコギターとの共演と多彩で、どれもいい。

 アヌーシュカは、ビートルズにも影響を与えたシタールの名手ラビ・シャンカールの娘。ジャズ歌手ノラ・ジョーンズの異母妹でもある。インドの太鼓タブラの奏者カーシュ・カーレイと共作のアルバム「水の旅」(2007年)で知り、気に入った。収録曲「スリザー」で縦横無尽な演奏を見せる。インド音楽とエレクトロビートを組み合わせたカーシュの作風とも相性がいい。

カーシュ・カーレイと共作のアルバム「水の旅」


 ジャズピアノ奏者ハービー・ハンコックが「平和」をテーマに世界のミュージシャンを結集させたというアルバム「イマジン・プロジェクト」(10年。ジョン・レノンの「イマジン」のカバーが目玉)にも参加。収録曲「ソング・ゴーズ・オン」では、サックス奏者ウェイン・ショーターと並んで好演が光る。

 ノラと共演した「トレース・オブ・ユー」(同名の13年のアルバムに収録)など、しみじみと聴かせる曲もあるが「ブレリア・コン・リカルド」「スリザー」「ソング・ゴーズ・オン」みたいな躍動的な曲の方が技巧がさえる。

 (志)